「地方公務員でも副業はできるの?」「兼業するには許可が必要?」近年、働き方改革の流れを受けて、地方公務員の兼業・副業に対する関心が高まっています。
実は、地方公務員でも一定の条件のもとで兼業が認められるケースが増えています。
しかし、無許可で兼業を行うと懲戒処分の対象となる可能性があるため、正しい知識が不可欠です。
本記事では、地方公務員の兼業許可について、法的根拠から許可基準、申請手続き、認められる兼業・認められない兼業の具体例まで、実務に役立つ情報を網羅的に解説します。
地方公務員の兼業に関する法的根拠

地方公務員法による制限
地方公務員の兼業については、地方公務員法第38条によって制限されています。
この条文では以下のように規定されています。
「職員は、任命権者の許可を受けなければ、営利を目的とする私企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利を目的とする私企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。」
つまり、営利目的の兼業は原則として禁止されていますが、任命権者の許可を得れば可能という建付けになっています。
なぜ兼業が制限されているのか
地方公務員の兼業が制限される理由は主に3つあります。
職務専念義務の確保:公務員は全体の奉仕者として職務に専念する義務があります(地方公務員法第35条)。兼業によって本来の職務がおろそかになることを防ぐためです。
信用失墜行為の防止:公務員の信用を損なう行為を防止する必要があります(同法第33条)。不適切な兼業によって、自治体や公務員全体への信頼が損なわれることを避けるためです。
守秘義務の保持:職務上知り得た秘密を漏らしてはならないという守秘義務があります(同法第34条)。兼業先で職務上の情報が漏洩するリスクを最小限にする必要があります。
近年の法改正と規制緩和の動き
2017年以降、国家公務員の兼業規制が段階的に緩和され、地方公務員についても同様の動きが広がっています。
総務省は2020年に「地方公務員の社会貢献活動に関する兼業の取扱いについて」という通知を発出し、地域貢献活動や社会貢献活動に関する兼業について、より柔軟に許可できる方針を示しました。
これを受けて、多くの自治体が兼業許可基準を見直し、地域活性化や専門性を活かした活動については積極的に許可する方向に舵を切っています。
兼業許可の判断基準

許可される兼業の条件
任命権者が兼業を許可する際の一般的な判断基準は以下の通りです。
職務遂行に支障がないこと:兼業によって本来の職務に影響が出ないことが最も重要です。勤務時間中の兼業や、疲労により業務効率が低下するような過度な兼業は認められません。
公務の公正性・信頼性を損なわないこと:利益相反が生じる兼業や、職務上の地位を利用した兼業は認められません。例えば、許認可権限を持つ部署の職員が、関連業界での兼業を行うことは不適切です。
守秘義務に違反しないこと:職務上知り得た情報を兼業先で利用することは禁止されています。
公序良俗に反しないこと:社会通念上、公務員として不適切と判断される兼業は認められません。
報酬が適正であること:一部の自治体では、兼業による報酬額に上限を設けている場合があります。
自治体によって異なる許可基準
兼業許可の具体的な基準は自治体によって異なります。
先進的な自治体では、以下のような活動を積極的に認める傾向にあります。
地域貢献活動:地域おこしや町おこしに関わる活動、NPO法人での活動など
専門性を活かした活動:資格を活かした講師業、執筆活動、研究活動など
社会貢献活動:ボランティア活動、非営利団体での活動など
農業等の自営業:小規模な農業や不動産賃貸など
一方、保守的な自治体では、従来通り厳格な運用を続けているケースもあります。
自分の所属する自治体の規定を確認することが重要です。
認められる兼業・認められない兼業の具体例

許可される可能性が高い兼業
実際に多くの自治体で許可されている兼業の例を紹介します。
講師・セミナー活動:自身の専門知識を活かした大学での非常勤講師、研修講師、セミナー登壇など。ただし、勤務時間外に限定され、職務との関連性が考慮されます。
執筆・著作活動:専門分野に関する書籍の執筆や論文発表。職務上の秘密に関わらず、個人の知見に基づくものであれば認められやすい傾向にあります。
小規模農業:実家の農地を継承した場合の農業経営や、休日の農作業など。地域活性化の観点から認められるケースが増えています。
不動産賃貸:相続した不動産の賃貸など。ただし、事業規模が一定以下(一般的には5棟10室未満)であることが条件となります。
地域活動・NPO活動:地域おこし協力隊のサポート、まちづくり団体での活動、NPO法人の理事就任など。無報酬または実費弁償程度であれば許可されやすい傾向です。
スポーツ指導:資格を持つスポーツのコーチや審判。青少年育成の観点から評価されることが多いです。
芸術・文化活動:音楽活動、美術作品の制作・販売など。営利性が強すぎない範囲であれば認められるケースがあります。
許可されにくい・禁止される兼業
以下のような兼業は原則として許可されません。
企業の役員就任:株式会社や合同会社の取締役、監査役などへの就任。利益相反のリスクが高いため、原則として認められません。
継続的な営利事業:飲食店経営、小売業、コンサルティング業など、継続的に利益を追求する事業。職務専念義務に抵触する可能性が高いです。
職務と関連する分野での兼業:建築確認を担当する職員が建築設計事務所で働く、福祉部門の職員が介護事業所を経営するなど、明確な利益相反が生じるケース。
勤務時間中の兼業:当然ながら、勤務時間内に他の仕事をすることは職務専念義務違反となります。
公序良俗に反する事業:風俗営業、ギャンブル関連事業など、公務員の信用を損なう可能性がある事業。
大規模な不動産賃貸業:賃貸物件が一定規模(概ね5棟10室)を超える場合、事業性が高いと判断され、許可されません。
FX・株式投資の専業化:投資自体は認められていますが、デイトレードなど職務時間中に取引を行う必要がある活動や、事業と見なされる規模の投資は問題となります。
兼業許可の申請手続き

申請のタイミング
兼業許可の申請は、兼業を開始する前に行う必要があります。
事後申請は原則として認められず、無許可で兼業を行った場合は懲戒処分の対象となります。
一般的な申請のタイミング
新たに兼業を始める場合:兼業開始予定日の1ヶ月~2ヶ月前までに申請。
継続的な兼業の場合:年度ごとまたは一定期間ごとに更新申請が必要な自治体もあります。
兼業内容に変更がある場合:変更内容を速やかに報告し、必要に応じて再申請。
申請に必要な書類
兼業許可申請に必要な書類は自治体によって異なりますが、一般的には以下のようなものが求められます。
営業許可申請書(兼業許可申請書):所定の様式に記入します。
主な記載事項は以下の通りです。
- 兼業の内容(具体的な業務内容)
- 兼業先の名称・所在地
- 兼業の期間
- 報酬の有無と金額
- 勤務時間との関係(勤務時間外であることの証明)
- 兼業の理由・目的
兼業先からの依頼書または契約書の写し:兼業内容を証明する書類
就業規則や業務内容が分かる資料:兼業先の組織や業務内容を示す書類
その他:自治体によっては、所属長の意見書や、利益相反に関する誓約書などが必要な場合もあります
審査から許可までの流れ
標準的な審査プロセスは以下の通りです。
1. 所属長への相談(事前相談) まず直属の上司や人事担当者に相談し、申請可能かどうかの見込みを確認します。この段階で明らかに許可されない内容であれば、正式申請を見送ることができます。
2. 正式申請 所定の申請書類を人事担当部署に提出します。
3. 審査 人事担当部署が、職務専念義務、守秘義務、信用失墜行為に該当しないかなどの観点から審査を行います。必要に応じて追加資料の提出や面談が求められることもあります。
4. 許可・不許可の決定 任命権者(通常は市長や町村長、部局長など)が最終判断を行います。審査期間は自治体によって異なりますが、通常2週間~1ヶ月程度です。
5. 許可通知 許可された場合は書面で通知されます。許可条件が付される場合もあります。
6. 兼業の開始 許可を得てから兼業を開始します。許可された範囲内で活動し、定期的に報告が必要な場合もあります。
不許可となった場合の対応
申請が不許可となった場合、理由を確認し、以下の対応を検討できます。
内容の修正:不許可理由を解消できるよう兼業内容を修正し、再申請する。
審査請求:判断に不服がある場合、人事委員会に審査請求できる自治体もあります。
諦める:無許可で兼業を行うことは絶対に避け、許可が得られない場合は兼業を断念する。
無許可兼業のリスクと懲戒処分

発覚した場合の処分
無許可で兼業を行っていることが発覚した場合、地方公務員法第29条に基づき懲戒処分の対象となります。
処分の種類と内容
戒告:最も軽い処分で、文書により厳重注意を受けます。
減給:一定期間(通常1ヶ月~6ヶ月)、給料の一部(10分の1程度)が減額されます。
停職:一定期間(1ヶ月~6ヶ月程度)職務に従事できず、給料が支給されません。
免職:公務員の身分を失います。最も重い処分です。
実際の処分は、兼業の内容、期間、報酬額、職務への影響、反省の態度などを総合的に考慮して決定されます。
実際の処分事例
過去の事例から、具体的な処分例を紹介します。
事例1:無許可で継続的に講師業を行っていたケース 処分内容:減給6ヶ月(給料月額の10分の1) 背景:数年間にわたり無許可で企業研修の講師を務め、年間数十万円の報酬を得ていた。
事例2:無許可で会社を経営していたケース 処分内容:停職6ヶ月 背景:許可を得ずに自ら株式会社を設立し、代表取締役として事業を営んでいた。職務に支障は出ていなかったが、明確な法令違反として重い処分となった。
事例3:無許可で不動産賃貸業を営んでいたケース 処分内容:戒告 背景:相続した物件を賃貸していたが、許可申請を怠っていた。自ら報告したこと、事業規模が小さかったことが考慮され、比較的軽い処分となった。
発覚の経緯
無許可兼業が発覚する主なケースは以下の通りです。
住民からの通報:兼業していることが地域住民に知られ、自治体に通報される。
インターネット上の情報:SNSやホームページで兼業していることが判明する。
確定申告:税務署との情報共有により発覚する。
本人からの申告:後から許可が必要だと知り、自己申告する。
自己申告の場合、情状酌量により処分が軽減されることもあります。
無許可であることに気づいた時点で、速やかに上司や人事担当者に相談することが重要です。
兼業許可申請時の注意点とポイント

申請が認められやすくするコツ
兼業許可を得やすくするためのポイントを紹介します。
公益性・社会貢献性を強調する:単なる副収入目的ではなく、地域貢献や専門性の向上など、公益的な側面を明確に示すことが重要です。
職務への影響がないことを明示する:勤務時間外に行うこと、体力的・精神的に無理がないこと、本業に支障をきたさないことを具体的に説明します。
報酬を抑える:報酬額が高額だと営利性が高いと判断されやすくなります。適正な範囲(実費弁償や謝礼程度)に抑えることで許可されやすくなります。
期限を区切る:永続的な兼業より、一定期間に限定した兼業の方が許可されやすい傾向があります。
所属長の理解を得る:事前に所属長に相談し、理解と協力を得ておくことが重要です。所属長の推薦があると審査もスムーズになります。
よくある申請の失敗例
失敗例1:兼業内容の説明が不十分 「講師業」とだけ記載し、具体的な内容、頻度、時間などが不明確だったため、審査が長引いたり追加資料を求められたりする。
失敗例2:利益相反への配慮不足 自分の職務との関連性を考慮せず申請し、利益相反の可能性を指摘されて不許可となる。
失敗例3:事後申請 既に兼業を開始してから申請したため、無許可期間の兼業について問題視され、申請も不許可となる。
許可後の報告義務
兼業許可を得た後も、以下のような義務が発生することがあります。
定期報告:年度ごとに兼業の実施状況を報告する必要がある自治体もあります。
変更報告:兼業内容に変更が生じた場合は速やかに報告し、必要に応じて変更許可を得る。
終了報告:兼業を終了した際には報告が必要な場合もあります。
報告を怠ると、次回の申請が認められなくなる可能性もあるため、誠実に対応することが重要です。
自治体別の兼業許可事例

先進的な取り組みを行う自治体
神戸市:2017年から地域貢献応援制度を導入し、地域活動や社会貢献活動に関する兼業を積極的に認めています。NPO法人での活動や地域おこし活動などが対象で、年間数十件の許可実績があります。
生駒市(奈良県):公務員の副業を推進する「地域貢献応援制度」を全国に先駆けて導入。職員が地域で活躍することを奨励し、許可基準も明確化しています。
豊田市(愛知県):職員の専門性を地域で活かす「地域活動応援制度」を設け、講師活動や執筆活動などを支援しています。
実際の許可事例
自治体が公表している許可事例の一部を紹介します。
事例A:大学非常勤講師
内容:専門知識を活かした大学での非常勤講師(年間15コマ程度)
報酬:年間約30万円
許可理由:勤務時間外の活動で、専門性の向上にもつながる。
事例B:地域おこし協力隊のサポート
内容:地域おこし協力隊員への助言・サポート活動
報酬:実費弁償のみ
許可理由:地域活性化に寄与する公益性の高い活動。
事例C:執筆活動
内容:専門分野に関する書籍の執筆
報酬:印税として年間約50万円
許可理由:職務上の秘密に関わらず、個人の知見を広く社会に還元する活動。
事例D:農業
内容:実家の農地での農作業(週末のみ)
報酬:農産物の販売収入として年間約20万円
許可理由:小規模な農業で職務に支障なく、地域の農地保全にも貢献。
よくある質問(FAQ)

Q1:投資(株式投資・FX・仮想通貨など)は兼業に該当しますか?
A:個人の資産運用としての投資は、原則として兼業には該当しません。ただし、勤務時間中に頻繁に取引を行うデイトレードや、事業と見なされる規模の投資活動は職務専念義務違反となる可能性があります。また、職務上知り得た情報を利用したインサイダー取引は当然禁止されています。
Q2:ブログやYouTubeで広告収入を得ることは可能ですか?
A:内容や規模によります。趣味の範囲で少額の広告収入を得る程度であれば問題視されないケースもありますが、継続的に高額の収入を得る場合や、公務員であることを前面に出して活動する場合は、許可が必要となる可能性が高いです。事前に人事担当者に相談することをおすすめします。
Q3:フリマアプリで不用品を販売するのは兼業ですか?
A:自分の不用品を処分する程度であれば兼業には該当しません。ただし、継続的に商品を仕入れて転売する「せどり」などは営利事業と見なされ、許可が必要です。
Q4:親の事業を無償で手伝うのは問題ありませんか?
A:家族の手伝い程度であれば通常は問題ありませんが、実質的に事業の経営に関与している場合や、報酬の有無に関わらず継続的・定期的に業務に従事している場合は、許可が必要となる可能性があります。
Q5:許可を得た兼業で得た収入は確定申告が必要ですか?
A:給与以外の所得が年間20万円を超える場合は、原則として確定申告が必要です。自治体によっては、確定申告書の写しの提出を求められる場合もあります。
Q6:転勤や異動があった場合、許可は継続されますか?
A:異動により任命権者が変わる場合、許可も引き継がれるかどうかは自治体の規定によります。多くの場合、再度申請または届出が必要となります。異動が決まった時点で人事担当者に確認しましょう。
まとめ:地方公務員が兼業許可を得るために

重要ポイントの再確認
兼業は原則として任命権者の許可が必要です。無許可での兼業は懲戒処分の対象となるため、必ず事前に申請しましょう。
許可基準は自治体によって異なります。自分の所属する自治体の規定を確認し、人事担当者に相談することが第一歩です。
地域貢献や社会貢献に資する兼業は許可されやすい傾向にあります。公益性を意識した申請内容にすることが重要です。
職務専念義務、守秘義務、信用失墜行為に抵触しないことが許可の大前提です。これらに問題がないことを明確に示す必要があります。
申請は余裕を持って行い、誠実に手続きを進めることで、許可を得られる可能性が高まります。
最後に
近年、地方公務員の兼業に対する考え方は変化しつつあり、職員の多様な経験やスキルを地域で活かすことが推奨される流れにあります。
ただし、あくまで公務が本業であることを忘れず、本業に支障をきたさない範囲で、適切に許可を得て兼業を行うことが大切です。
兼業を検討している方は、まず所属する自治体の兼業規定を確認し、人事担当部署に相談することから始めましょう。
適切な手続きを踏むことで、公務員としてのキャリアを維持しながら、地域や社会に貢献できる活動を行うことが可能です。

