「地域手当って何?」「自分の勤務地では支給されるの?」「いくらもらえるの?」地方公務員として働く方や、これから公務員を目指す方にとって、地域手当は給与を大きく左右する重要な手当です。
地域手当は、物価や生活費が高い地域で働く職員に支給される手当であり、同じ職種・経験年数でも勤務地によって月数万円の差が生まれることも珍しくありません。しかし、支給基準や計算方法は複雑で、正確に理解している人は意外と少ないのが現状です。
本記事では、地方公務員の地域手当について、制度の基本から支給額の計算方法、対象地域、他の手当との関係まで、すべてを網羅的に解説します。
給与明細を正しく理解し、将来のキャリアプランを立てるための知識を身につけましょう。
地域手当とは?制度の基本を理解する

地域手当の目的と法的根拠
地域手当は、民間賃金の高い地域に勤務する職員の給与を民間水準と均衡させることを目的とした手当です。地方公務員の場合、各自治体の条例に基づいて支給されますが、その基準は国家公務員の制度に準拠しているケースが多くあります。
地域手当の主な目的
- 地域間の物価・生活費の差を補正する
- 民間賃金水準との均衡を図る
- 優秀な人材の確保と定着を促進する
- 地域ごとの適正な給与水準を実現する
この手当は、平成18年(2006年)の給与構造改革によって、それまでの「調整手当」から名称が変更され、支給地域と支給割合が見直されました。当時の改革では、大都市圏への支給を手厚くし、地方の支給を縮小する方向性が打ち出されました。

国家公務員と地方公務員の違い
地域手当の制度は、国家公務員と地方公務員で基本的な考え方は同じですが、運用面で違いがあります。

国家公務員の場合
- 人事院規則で全国統一の基準が定められている
- 支給地域と支給割合が明確に規定されている
- 最高20%まで支給(東京都特別区など)
地方公務員の場合
- 各自治体が条例で独自に定める
- 国家公務員の基準に準拠する自治体が多い
- 独自の支給率を設定している自治体もある
- 財政状況により支給率が異なる場合がある
例えば、東京都特別区の職員は20%、横浜市は16%、大阪市は16%といったように、大都市圏では高い割合で支給されています。一方、地方の中小都市では支給されないか、支給されても3%程度という地域も多く存在します。
地域手当が支給される理由
なぜ地域によって手当の額が違うのでしょうか。その背景には、地域間の経済格差があります。
地域間格差の具体例
- 住居費:東京23区の家賃は地方都市の2~3倍
- 食費:物価水準が10~20%程度異なる
- 交通費:都市部ほど生活に必要な交通費が高額
- 教育費:私立学校の割合や塾費用に地域差がある
これらの生活費の違いを考慮せずに全国一律の給与とすると、大都市圏では実質的な生活水準が低下し、優秀な人材の確保が困難になります。地域手当は、こうした不公平を是正するための調整弁として機能しています。
地域手当の支給対象地域と支給割合

支給級地の区分と支給率
地域手当は、地域を「級地」に区分し、それぞれの級地に応じた支給率が設定されています。国家公務員の基準では、以下のように区分されています。
主要都市の支給割合(国家公務員基準)
1級地(20%支給):
- 東京都特別区(23区)
2級地(18%支給): 該当なし(現在は設定されていない)
3級地(16%支給):
- 大阪市
- 横浜市
- 名古屋市
- さいたま市
- 千葉市
- 川崎市
4級地(15%支給):
- 神戸市
- 京都市
- 福岡市
- 仙台市
- 広島市など
5級地(12%支給):
- 札幌市
- 北九州市
- 浜松市
- 新潟市
- 岡山市など
6級地(10%支給):
- 熊本市
- 鹿児島市
- 金沢市
- 那覇市など
7級地(6%支給):
- 長崎市
- 大分市
- 宮崎市など
支給なし: 上記以外の多くの地方都市・町村
地方自治体独自の支給基準
地方公務員の場合、各自治体が独自の判断で支給率を決定できるため、国家公務員の基準と異なる場合があります。
独自基準の例
東京都の特別区(区職員):
- 支給率:20%(国家公務員と同じ)
- 全職員に一律支給
神奈川県(県職員):
- 横浜市勤務:16%
- 川崎市勤務:16%
- その他の地域:地域により異なる(0~10%)
財政難による独自削減例:
- 一部の自治体では、財政状況を理由に国基準より低い支給率を設定
- 例:国基準10%の地域で、実際は5%のみ支給
自分が勤務する(または希望する)自治体の具体的な支給基準は、各自治体の給与条例や人事委員会の勧告を確認する必要があります。
町村部と特例地域
市部以外の町村では、原則として地域手当は支給されません。ただし、以下のような例外があります。
支給される町村の例:
- 東京都の町村部(三鷹市周辺など):大都市圏の一部として支給
- 政令指定都市の隣接町村:一部で低率支給される場合がある
特例的な扱い:
- 離島や僻地:地域手当ではなく「特地勤務手当」が支給される
- 過疎地域:別途「へき地手当」が支給される場合がある
町村職員を目指す場合、地域手当がないことを前提に給与水準を理解する必要があります。
地域手当の具体的な計算方法

基本的な計算式
地域手当の計算方法は、以下の式で求められます。
地域手当の計算式
地域手当 = (給料月額 + 扶養手当) × 支給割合
重要なポイントは、「給料月額」と「扶養手当」の合計額に支給割合を掛けることです。他の手当(住居手当、通勤手当など)は計算の基礎に含まれません。
具体的な計算例
実際の数字を使って計算してみましょう。
例1:東京都特別区勤務の職員(独身)
- 給料月額:300,000円
- 扶養手当:0円(独身のため)
- 支給割合:20%
計算:(300,000円 + 0円) × 20% = 60,000円
年間支給額:60,000円 × 12ヶ月 = 720,000円
例2:横浜市勤務の職員(配偶者と子ども2人扶養)
- 給料月額:350,000円
- 扶養手当:26,500円(配偶者6,500円 + 子2人×10,000円)
- 支給割合:16%
計算:(350,000円 + 26,500円) × 16% = 60,240円
年間支給額:60,240円 × 12ヶ月 = 722,880円
例3:地方都市勤務の職員(地域手当6%)
- 給料月額:280,000円
- 扶養手当:10,000円(子1人)
- 支給割合:6%
計算:(280,000円 + 10,000円) × 6% = 17,400円
年間支給額:17,400円 × 12ヶ月 = 208,800円
このように、勤務地によって年間50万円以上の差が生じることもあります。

期末手当・勤勉手当への影響
地域手当は、ボーナスにあたる期末手当・勤勉手当の計算にも影響します。
期末手当・勤勉手当の計算基礎
計算基礎額 = 給料月額 + 地域手当 + 扶養手当
具体例(東京都特別区、給料月額30万円の場合)
- 給料月額:300,000円
- 地域手当:60,000円
- 扶養手当:0円
- 計算基礎額:360,000円
年間4.5ヶ月分の期末・勤勉手当が支給される場合: 360,000円 × 4.5ヶ月 = 1,620,000円
地域手当がない地域(給料月額30万円)の場合: 300,000円 × 4.5ヶ月 = 1,350,000円
差額:270,000円(年間のボーナスだけで27万円の差)

昇給による地域手当の増加
給料月額が昇給すれば、それに伴って地域手当も自動的に増加します。
昇給例(東京都特別区、支給率20%)
- 入庁時の給料月額:180,000円 → 地域手当36,000円
- 5年目の給料月額:230,000円 → 地域手当46,000円
- 10年目の給料月額:280,000円 → 地域手当56,000円
- 20年目の給料月額:380,000円 → 地域手当76,000円
キャリアが進むにつれて、地域手当の絶対額も大きくなっていきます。

他の手当との関係と併給調整

広域異動手当との違い
地域手当と混同されやすいのが「広域異動手当」です。この2つは明確に異なる手当です。
地域手当:
- 目的:地域の物価・生活費の差を補正
- 対象:その地域で勤務するすべての職員
- 期間:勤務し続ける限り支給
- 支給率:地域により固定(3~20%)
広域異動手当:
- 目的:遠隔地への異動による負担を補償
- 対象:60km以上離れた地域に異動した職員
- 期間:異動後3年間の限定支給
- 支給率:最大10%(年々逓減)
地域手当が広域異動手当より多い場合は地域手当のみ支給され、地域手当が広域異動異動手当より少ない場合は、広域異動手当の支給割合の範囲で地域手当と広域異動手当の両方が支給されます。
特地勤務手当との違い
離島や僻地では、地域手当の代わりに「特地勤務手当」が支給されます。
特地勤務手当の特徴:
- 対象:離島、山間地、豪雪地帯など
- 目的:不便な地域での勤務を補償
- 支給率:最大25%(地域により1~4級地に区分)
- 生活必需品の購入困難さや交通の不便さを考慮
地域手当と特地勤務手当の併給: 原則として併給されません。どちらか一方のみが支給されます。
例:沖縄県の場合
- 那覇市:地域手当10%
- 離島部:特地勤務手当(級地により異なる)
住居手当・通勤手当との関係
地域手当は、住居手当や通勤手当とは別に支給されます。
併給の例(東京都特別区勤務)
- 給料月額:300,000円
- 地域手当:60,000円(20%)
- 住居手当:28,000円(上限額)
- 通勤手当:15,000円(実費)
- 月額合計:403,000円
これらはすべて別個に計算され、それぞれ支給要件を満たせば併給されます。
異動・転勤時の地域手当の扱い

異動に伴う支給率の変更
勤務地が変わると、地域手当の支給率も変更されます。
パターン1:高支給率地域から低支給率地域への異動
- 東京都特別区(20%) → 大阪市(16%)
- 異動月から新しい支給率が適用される
- 月額給与が減少するため、実質的な減収となる
パターン2:地域手当なしの地域から支給地域への異動
- 地方都市(0%) → 横浜市(16%)
- 異動月から支給開始
- 実質的な昇給効果がある
パターン3:支給率が同じ地域間の異動
- 大阪市(16%) → 名古屋市(16%)
- 地域手当の額は変わらない
経過措置と激変緩和
平成18年の制度改正時には、地域手当の支給率が大きく変わった地域があり、激変緩和のための経過措置が設けられました。
経過措置の概要:
- 支給率が下がった職員:段階的に減額(3~5年かけて)
- 支給率が上がった職員:段階的に増額(3~5年かけて)
- 現在はほぼすべての自治体で経過措置が終了
具体例(仮想): 支給率が12%から6%に下がった地域の場合
- 1年目:10%支給(2%減)
- 2年目:8%支給(4%減)
- 3年目:6%支給(完全移行)
現在は経過措置期間を終えているため、異動時は即座に新しい支給率が適用されるのが一般的です。
転居を伴わない異動の場合
自治体によっては、転居を伴わない範囲内での異動で支給率が変わる場合があります。
東京都の例:
- 23区内の異動:20%(変わらず)
- 23区から多摩地域への異動:支給率が下がる可能性
- 同じ住所に住んでいても勤務地で判定
県職員の例:
- 県庁所在地勤務:10%
- 他の市町村の出先機関:3%または0%
- 転居しなくても支給率が変わる
このため、異動希望を出す際は、給与への影響も考慮することが重要です。
地域手当に関するよくある疑問

Q1: 地域手当がもらえるかどうか事前に確認できますか?
A: はい、確認可能です。以下の方法で調べられます。
確認方法:
- 自治体の給与条例を確認する(公式サイトで公開)
- 人事委員会の給与勧告資料を参照する
- 採用説明会で人事担当者に質問する
- 国家公務員の基準を参考にする(準拠している自治体が多い)
採用試験の受験前に、志望先自治体の地域手当支給状況を確認しておくことをお勧めします。
Q2: 同じ県内でも勤務地で支給率は変わりますか?
A: はい、変わります。
神奈川県職員の例:
- 横浜市内勤務:16%
- 川崎市内勤務:16%
- 相模原市内勤務:10%
- その他の市町村:0~6%
県職員の場合、配属先によって地域手当が大きく異なることがあります。初任配属地は選べないことが多いため、給与額には幅があると理解しておきましょう。
Q3: 地域手当は全員に支給されますか?
A: 対象地域で勤務するフルタイム職員には基本的に支給されますが、以下の場合は支給されないことがあります。
支給されない・減額されるケース:
- 非常勤職員(自治体により異なる)
- 再任用職員(減額される場合がある)
- 臨時・アルバイト職員
- 育児休業中(無給のため支給なし)
- 休職中(無給のため支給なし)
正規職員であれば、勤務地が支給対象地域である限り支給されます。
Q4: 地域手当は将来も同じ率で支給されますか?
A: 保証はありません。以下の要因で変動する可能性があります。
変動要因:
- 人事院勧告による見直し
- 民間賃金水準の変化
- 自治体の財政状況
- 物価や生活費の変動
- 地方分権改革の進展
実際、平成18年の改正では大幅な見直しが行われました。長期的には変動する可能性があることを理解しておきましょう。
Q5: 地域手当の高い地域に転職できますか?
A: 可能ですが、いくつかの制約があります。
転職の方法:
- 他自治体の中途採用試験を受験
- 経験者採用枠がある自治体を探す
- 年齢制限に注意(通常30~40歳まで)
- 任期付職員として採用
- 専門性を活かした任期付採用
- 数年後に正規職員化の可能性
- 広域人事交流
- 自治体間の人事交流制度を利用
- 一時的な異動の場合が多い

注意点:
- 退職金の通算期間に影響がある
- 新たな試験に合格する必要がある
- 年齢が上がるほど難しくなる
地域手当の今後の動向

民間準拠の原則と見直しの可能性
地域手当は、民間賃金との均衡を図ることが基本原則です。そのため、今後も定期的に見直される可能性があります。
見直しの方向性
大都市圏:
- 民間賃金の上昇に伴い、支給率が引き上げられる可能性
- 特に東京都心部では20%を超える要望も
- 人材確保競争の激化により上昇圧力
地方圏:
- 財政難により支給率が引き下げられる可能性
- 人口減少に伴う税収減の影響
- 民間賃金の低下による均衡維持
格差の拡大懸念: 地域手当の格差拡大は、地域間の公務員給与格差をさらに広げる可能性があり、議論が続いています。
デジタル化・リモートワークの影響
コロナ禍を経て、公務員の働き方も変化しつつあります。
テレワークと地域手当の関係:
- 自宅が支給対象外地域でも、勤務地基準で支給される
- 完全リモート勤務の場合、支給基準が不明確
- 今後、新たなルール作りが必要になる可能性
サテライトオフィス勤務:
- 本庁以外での勤務が増加
- 勤務地の認定基準が課題に
これらの新しい働き方に対応した地域手当の在り方が、今後議論されていくでしょう。
制度の抜本的見直しの議論
一部の有識者からは、地域手当制度そのものを見直すべきという意見も出ています。
見直し論の主な論点
支給地域の細分化:
- 現在の級地区分では不十分
- 市区町村単位でのより細かい設定が必要
支給率の上限引き上げ:
- 東京都心部では20%では不足
- 25~30%への引き上げ提案
逆に、地域手当廃止論も:
- 全国一律の給料表に統合すべき
- 地域による差別を助長するとの批判
- 代わりに住居手当の充実を図るべき
今後、これらの議論が本格化する可能性があります。
まとめ:地域手当を理解してキャリアを考える

地方公務員の地域手当について、制度の基本から計算方法、今後の動向まで解説してきました。最後に重要なポイントをまとめます。
地域手当を理解する5つのポイント
- 支給の有無と額は勤務地で決まる
- 東京都特別区:20%(最高水準)
- 政令市・県庁所在地:10~16%
- 地方の中小都市:0~6%または支給なし
- 同じ職種・経験年数でも年収に大きな差
- 給料月額と扶養手当が計算基礎
- 地域手当 = (給料月額 + 扶養手当) × 支給割合
- ボーナスにも影響するため年収差は大きい
- 昇給に伴い自動的に増額
- 異動により支給額が変わる
- 転勤時は即座に新しい支給率が適用
- 高支給地域から低支給地域への異動は実質的な減収
- キャリアプランに地域手当の変動を織り込むべき
- 他の手当との併給が可能
- 住居手当、通勤手当とは別に支給
- 広域異動手当との併給も可能(上限あり)
- 特地勤務手当とは選択適用
- 今後の変動可能性を認識する
- 民間賃金水準の変化により見直される
- 自治体の財政状況が影響する
- 長期的な保証はない
キャリア選択における地域手当の考え方
地域手当の多寡は、確かに給与額に大きく影響します。しかし、それだけで勤務地を選ぶべきではありません。
総合的な判断基準
- 生活費の実質負担(手当が高くても物価も高い)
- 希望する業務内容
- キャリアアップの機会
- ワークライフバランス
- 地域への愛着や貢献意欲
- 家族との生活
例えば、東京都特別区は地域手当20%で魅力的ですが、家賃などの生活費も非常に高額です。一方、地域手当のない地方都市でも、生活費が安く、実質的な可処分所得はそれほど変わらないケースもあります。
最後に
地域手当は給与の一部に過ぎません。公務員として働く本質的な目的は、地域住民のために貢献することです。給与水準も大切ですが、「どこで、どんな仕事をしたいか」という本質的な問いを大切にしてください。
地域手当の仕組みを正しく理解した上で、自分にとって最適なキャリアパスを選択しましょう。この記事が、皆さんの充実した公務員生活の一助となれば幸いです。
