地方公務員として安定したキャリアを築きたいと考えている方にとって、採用試験の突破は最初の関門です。
この記事では、地方公務員採用試験の仕組み、試験内容、対策方法、合格後の流れまで、初心者でもわかりやすく解説します。
地方公務員採用試験の基本知識

地方公務員とは何か
地方公務員とは、都道府県、市区町村、特別区などの地方自治体に勤務する職員の総称です。全国で約274万人が地方公務員として働いており、私たちの生活に密接に関わる行政サービスを提供しています。
主な業務内容は、住民票や戸籍の管理、福祉サービスの提供、道路や公園などのインフラ整備、教育・文化施策の推進、税金の徴収と予算管理など、地域社会を支える幅広い分野に及びます。
地方公務員の最大の特徴は、地域に根ざした仕事ができることと、雇用の安定性です。転勤は基本的に同一自治体内に限られ、民間企業のような突然の解雇やリストラのリスクはほとんどありません。
採用試験の種類と区分
地方公務員の採用試験には、いくつかの種類と区分があります。
試験の種類として、新卒者や若年者を対象とした「一般採用試験」、民間企業などでの職務経験を持つ人を対象とした「経験者採用試験」、専門的な資格や技能を持つ人向けの「専門職採用試験」があります。
職種区分では、事務系の「一般行政職」、理系専門分野の「技術職(土木、建築、電気、化学など)」、専門資格が必要な「専門職(保健師、管理栄養士、福祉職など)」、警察官や消防士などの「公安職」に分かれます。

学歴区分として、大学卒業程度(大卒程度)、短大卒業程度(短大卒程度)、高校卒業程度(高卒程度)の試験があります。これは受験資格の学歴要件ではなく、試験の難易度を示すものです。

実施主体と統一試験
地方公務員の採用試験は、各自治体が独自に実施します。ただし、効率化のため、複数の自治体が共同で実施する「統一試験」も存在します。
日本人事試験研究センターが実施する統一試験には、「全国型」と「関東型」「中部・北陸型」などの地域別があり、多くの自治体がこの試験を採用しています。
統一試験日程として、A日程(6月第4日曜日)、B日程(7月第4日曜日)、C日程(9月第3日曜日)、D日程(10月第2日曜日)があり、日程が異なれば複数の自治体を併願できます。
大都市や政令指定都市は独自試験を実施することが多く、試験日程や内容が異なります。
受験資格と年齢制限

年齢要件の詳細
地方公務員採用試験の年齢要件は、試験区分や自治体によって異なります。
大卒程度試験では、一般的に22歳から30歳程度までが受験できます。具体的には「22歳以上30歳未満」や「昭和○年4月2日から平成○年4月1日までに生まれた者」という形で規定されます。
高卒程度試験は、18歳から21歳程度が対象で、「高校卒業見込み及び卒業後3年以内」などの条件が設定されることが多いです。
年齢制限の緩和傾向として、近年は受験機会の拡大のため、上限年齢を引き上げる自治体が増えています。35歳まで、40歳まで、中には年齢制限を撤廃する自治体もあります。
学歴要件の実態
「大卒程度」「高卒程度」という区分は、実は学歴要件ではありません。試験の難易度を示すものであり、実際の学歴は問われないことがほとんどです。
例えば、高校卒業者が大卒程度試験を受験することも、大学卒業者が高卒程度試験を受験することも可能です(ただし、年齢要件は満たす必要があります)。
一部の技術職や専門職では、「○○学部卒業」「○○の単位を取得していること」などの学歴要件が設けられる場合があります。
その他の受験資格
年齢と学歴以外にも、以下の要件があります。
国籍要件として、一般行政職は原則として日本国籍が必要です。ただし、技術職や専門職の一部は国籍を問わない自治体もあります。
欠格事由では、地方公務員法第16条により、禁錮以上の刑に処せられた者、懲戒免職処分を受けた者などは受験できません。
居住地要件は、ほとんどの自治体で設けられていませんが、採用後に当該自治体内または通勤可能な範囲に居住できることが求められる場合があります。
試験内容の詳細

一次試験:筆記試験
一次試験では、主に筆記試験が実施されます。
教養試験(一般知識・一般知能)は、ほぼすべての自治体で実施されます。出題数は40問から50問程度、時間は120分から150分が標準的です。
一般知識分野からは、政治、経済、法律、社会、日本史、世界史、地理、思想、文学・芸術、数学、物理、化学、生物、地学などが出題されます。
一般知能分野では、文章理解、判断推理、数的推理、資料解釈などの問題が出されます。知識よりも論理的思考力や読解力を測る内容です。
専門試験は、自治体や職種によって実施の有無が異なります。一般行政職では、憲法、行政法、民法、経済学、財政学、政治学などが出題範囲です。技術職では、それぞれの専門分野(土木工学、建築学など)から出題されます。
近年は専門試験を課さない「教養型」の試験を採用する自治体が増えています。
論文試験・作文試験は、ほとんどの自治体で実施されます。テーマは自治体の課題、時事問題、受験者の考え方などです。文字数は800字から1,500字程度、時間は60分から90分が一般的です。
二次試験以降:人物試験
筆記試験合格者は、人物試験に進みます。
個別面接は、2回から3回実施されることが多いです。一次面接では人事担当者、二次面接では配属予定部署の管理職、最終面接では幹部職員や首長(市長・知事など)が面接官を務めます。
質問内容は、志望動機、自己PR、学生時代に力を入れたこと、自治体への理解度、時事問題への見解、ストレス耐性、協調性などです。
集団討論・グループワークでは、5人から8人程度のグループで、与えられたテーマについて議論します。評価ポイントは、発言の論理性、協調性、リーダーシップ、傾聴力などです。
プレゼンテーション試験を実施する自治体もあります。事前課題や当日提示されるテーマについて、10分程度で発表します。
適性検査・体力検査
適性検査は、性格や適性を測るテストで、多くの自治体で実施されます。YG性格検査、クレペリン検査などが使用されます。結果は参考資料として扱われることが多いです。
体力検査は、主に公安職(警察官、消防士)で実施されます。一般行政職では通常実施されません。
試験の難易度と競争率

自治体規模別の難易度
地方公務員採用試験の難易度は、自治体の規模や人気度によって大きく異なります。
都道府県・政令指定都市は、人気が高く競争率も高めです。東京都特別区、大阪市、横浜市などの大都市圏は、競争率が10倍を超えることもあります。試験内容も専門性が高く、難易度は高めです。
中核市・一般市では、競争率は5倍から10倍程度が一般的です。試験難易度は都道府県よりやや易しい傾向があります。
町村は、募集人数が少ないため競争率は高めになることもありますが、試験難易度自体は比較的易しいです。

職種別の競争率
職種によっても競争率は異なります。
一般行政職は、最も人気が高く、競争率は5倍から15倍程度です。大都市では20倍を超えることもあります。

技術職(土木、建築など)は、専門性が求められるため、一般行政職より競争率は低めです。3倍から5倍程度が一般的で、技術職不足の自治体では2倍未満の場合もあります。
専門職(福祉、保健師など)は、資格が必要なため受験者が限定され、競争率は2倍から5倍程度です。
公安職(警察官、消防士)は、体力要件があるものの人気が高く、5倍から10倍程度の競争率です。

最終合格率の目安
一次試験の合格率は20%から40%程度、最終合格率は全体の受験者の10%から20%程度が一般的です。
例えば、受験者1,000人の場合、一次合格者が300人程度、最終合格者が100人から150人程度となります。
ただし、これはあくまで目安であり、自治体や年度によって大きく変動します。
効果的な試験対策方法

学習計画の立て方
地方公務員試験の準備には、6ヶ月から1年程度の学習期間が必要です。
スケジュール例(1年計画)として、開始から3ヶ月目までは教養試験の基礎固め(一般知能中心)、4ヶ月目から6ヶ月目は教養試験の応用と一般知識、専門試験(必要な場合)、7ヶ月目から9ヶ月目は過去問演習と論文対策、10ヶ月目から12ヶ月目は総仕上げと面接対策を行います。
1日の学習時間は、大学生なら3時間から5時間、社会人なら2時間から3時間を目安にします。
教養試験の対策
一般知能分野は配点が高いため、最優先で対策すべきです。
文章理解は毎日1題から2題解く習慣をつけましょう。判断推理・数的推理は、パターンを理解し、問題演習を繰り返すことが重要です。資料解釈は、グラフや表の読み取りに慣れることが大切です。
一般知識分野は範囲が広いため、頻出分野に絞って学習します。
政治・経済・法律は出題頻度が高いので重点的に学習、日本史・世界史・地理は重要事項を整理、自然科学は苦手なら捨て科目にするのも戦略の一つです。
過去問演習が最も効果的な対策です。志望自治体の過去問を最低3年分、できれば5年分から10年分解きましょう。
論文試験の対策
論文試験は差がつきやすい科目です。
頻出テーマを研究し、人口減少・少子高齢化対策、地域活性化・まちづくり、防災・減災、環境問題、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進、子育て支援、働き方改革などについて、自分なりの考えをまとめておきましょう。
志望自治体の研究として、総合計画、重点施策、予算、統計データなどを熟読し、その自治体固有の課題を理解します。
文章構成は、PREP法(結論→理由→具体例→結論)を基本とし、序論・本論・結論の三部構成を意識します。
添削を受けることが重要です。予備校の添削サービスや、大学のキャリアセンターを活用しましょう。
面接試験の対策
面接試験は最終合否を左右する重要な試験です。
想定問答集の作成により、志望動機、自己PR、学生時代の経験、志望自治体について、時事問題への見解、ストレス対処法、10年後のビジョンなどの質問を想定し、回答を準備します。
模擬面接の実施が効果的です。予備校、大学のキャリアセンター、友人・家族などに協力してもらい、本番を想定した練習を行いましょう。
志望自治体の研究を深め、自治体の施策、課題、特色、最近のニュースなどを把握します。実際に現地を訪れることも有効です。
予備校・独学の選択

予備校利用のメリット・デメリット
メリットとして、体系的なカリキュラムで効率的に学習できる、論文添削や模擬面接のサービスを受けられる、最新の試験情報が得られる、学習仲間ができてモチベーションを維持しやすいなどがあります。
デメリットは、費用がかかる(30万円から50万円程度)、通学の時間と手間が必要、自分のペースで学習しにくい場合があることです。
独学のメリット・デメリット
メリットとして、費用が安い(参考書代のみ、3万円から5万円程度)、自分のペースで学習できる、時間の制約がないなどがあります。
デメリットは、学習計画を自分で立てる必要がある、論文添削や模擬面接の機会が少ない、モチベーション維持が難しい、最新情報の入手に工夫が必要などです。

通信講座という選択肢
予備校と独学の中間として、通信講座があります。
メリットは、予備校より費用が安い(15万円から25万円程度)、自分のペースで学習できる、論文添削などのサービスを受けられることです。
デメリットは、対面での質問ができない、学習仲間ができにくいことです。
社会人や地方在住者には、通信講座が適している場合が多いです。
合格後の流れ

内定から採用まで
最終合格後、採用内定となります。ただし、正式な採用は翌年4月が一般的です。
内定後の手続きとして、採用内定通知の受領、必要書類(卒業見込証明書、健康診断書など)の提出、採用前研修への参加(自治体による)などがあります。
注意点は、内定後も学業や現職の仕事をおろそかにしないこと、SNSなどでの不適切な発信を避けること、内定辞退する場合は速やかに連絡することです。
配属先の決定
配属先は、本人の希望、試験成績、面接評価、組織のニーズなどを総合的に考慮して決定されます。
必ずしも希望通りの配属になるとは限りませんが、数年後の異動で希望部署に配属される可能性もあります。
初任給と待遇
初任給は学歴や自治体によって異なりますが、大卒程度で月給18万円から20万円程度、高卒程度で月給15万円から17万円程度が一般的です。
これに各種手当(地域手当、通勤手当、住居手当など)が加算されます。ボーナスは年間で給料月額の約4ヶ月分が支給されます。

採用試験以外の採用ルート

経験者採用試験
民間企業などでの職務経験がある方を対象とした試験です。一定年数(3年以上または5年以上)の実務経験が必要です。
試験内容は論文と面接が中心で、教養試験があっても難易度は低めです。民間経験を活かして公務員になりたい方に適しています。

氷河期世代採用
就職氷河期世代(概ね35歳から54歳)を対象とした特別採用枠です。国の施策として推進されており、多くの自治体で実施されています。
年齢条件以外は通常の採用試験と同様ですが、募集人数は少なめです。
障害者採用
障害者手帳を持つ方を対象とした採用試験です。一般の採用試験とは別枠で募集されます。
試験内容は簡易な教養試験と面接が中心で、受験しやすい制度となっています。
採用試験に関するよくある質問

複数の自治体を併願できる?
試験日程が異なれば、複数の自治体を併願できます。統一試験のA日程、B日程、C日程、D日程を活用すれば、最大4つ以上の自治体を受験可能です。
ただし、それぞれの自治体に合わせた対策(論文、面接など)が必要なため、併願しすぎると準備が不十分になるリスクがあります。3つから4つ程度が現実的です。
既卒・社会人でも受験できる?
年齢要件を満たしていれば、既卒者や社会人も受験できます。近年は「職歴不問」の自治体が増えています。
むしろ、社会人経験は面接で評価されることが多く、有利に働く場合もあります。30代以上の方は、経験者採用試験も検討すると良いでしょう。
公務員試験に落ちたら再チャレンジできる?
可能です。年齢要件を満たしていれば、何度でも受験できます。
再受験者は前回の反省を活かせるため、合格率が上がる傾向があります。諦めずに挑戦を続けることが大切です。
民間企業との併願は可能?
可能ですが、スケジュール管理が重要です。民間企業の選考は3月から6月に集中し、公務員試験は6月から9月が本番です。
両方を本気で目指す場合、かなりハードなスケジュールになることを覚悟しましょう。どちらを第一志望とするか明確にすることが重要です。
まとめ:地方公務員採用試験合格への道筋

地方公務員採用試験について、重要なポイントをまとめます。
試験の仕組みを理解することから始めましょう。自治体の種類、試験区分、試験内容、日程などの基本情報を把握します。年齢要件と学歴要件を確認し、受験可能な試験を特定します。
効果的な対策として、6ヶ月から1年の学習期間を確保すること、教養試験は一般知能分野を最優先にすること、論文試験は志望自治体の研究が不可欠であること、面接試験は模擬面接で実践練習することが重要です。
学習方法の選択では、予算とライフスタイルに応じて、予備校、独学、通信講座から選択します。どの方法でも、過去問演習が最も重要な対策です。
複数受験の戦略により、統一試験の日程を活用し、3つから4つ程度の自治体を併願します。第一志望を明確にし、その自治体の対策を最優先します。
合格後の心構えとして、内定後も気を抜かず、学業や現職の仕事を全うすること、公務員としての自覚を持ち、不適切な言動を慎むことが大切です。
最後に
地方公務員採用試験は、しっかりと準備すれば十分に合格可能な試験です。試験範囲は広いですが、出題傾向は比較的安定しています。計画的に学習を進め、諦めずに挑戦を続けることが合格への鍵です。
地域社会に貢献し、安定したキャリアを築ける地方公務員という仕事は、非常に魅力的な選択肢です。この記事を参考に、ぜひ採用試験合格を目指してください。あなたの挑戦を応援しています。

