「お金が底をついて生活できない」「家賃が払えず家を失いそう」「病気で働けないのに頼れる人がいない」
生活が立ち行かなくなったとき、市役所の「生活保護」という制度は、あなたを守るために存在します。しかし、「申請方法が分からない」「自分は対象になるのか不安」「申請したら周りにバレないか」など、さまざまな心配から申請をためらっている方も多いのが現実です。
結論から言えば、生活保護を受ける権利はすべての国民に保障されており、申請することは恥ずかしいことでも、特別なことでもありません。
本記事では、市役所での生活保護申請の手順・受給条件・支給額・よくある疑問・申請が却下された場合の対処法まで、すべてを分かりやすく解説します。一人で抱え込まず、まずは読み進めてみてください。
生活保護とはどんな制度?基本を理解しよう

憲法が保障する「最後のセーフティネット」
生活保護は、日本国憲法第25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」を具体化した制度です。
生活保護法(1950年制定)に基づき、生活に困窮するすべての国民に対して、国が必要な保護を行います。
生活保護は「施し」や「恩恵」ではなく、憲法が保障する権利です。収入・資産が一定基準を下回り、他に利用できる手段がない場合、誰でも申請できる制度です。
厚生労働省「被保護者調査(2023年)」によると、2023年度の生活保護受給者数は約202万人(約164万世帯)で、高齢者単身世帯・傷病者・障がい者世帯が受給者の大多数を占めています。
生活保護で受けられる扶助の種類
生活保護には、生活のさまざまな場面を支える8種類の「扶助」があります。
| 扶助の種類 | 内容 |
|---|---|
| 生活扶助 | 食費・衣服・光熱費など日常生活に必要な費用 |
| 住宅扶助 | 家賃・地代・住宅維持費の補助 |
| 医療扶助 | 医療費の全額補助(自己負担なしで医療機関を受診できる) |
| 介護扶助 | 介護サービス利用に必要な費用 |
| 教育扶助 | 子どもの義務教育にかかる費用(学用品・給食費など) |
| 出産扶助 | 出産に必要な費用 |
| 生業扶助 | 就職・自立に必要な技能習得・資材費用など |
| 葬祭扶助 | 葬祭に必要な費用 |
特に重要なのが「医療扶助」です。 生活保護受給者は、病院・診療所での医療費が無料になります(福祉事務所が指定する医療機関に限る)。病気で働けない・医療費が払えないという方にとって、最も重要な支援の一つです。
生活保護の受給条件:自分は対象になる?

4つの基本的な要件
生活保護を受けるためには、原則として以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。
① 資産の活用 預貯金・不動産・自動車・有価証券など活用できる資産を保有していないこと(または活用しても最低生活費に満たないこと)。ただし、住居として利用している不動産・生活に必要な最低限の家財は認められる場合があります。
② 能力の活用 働くことができる状況にある場合は、その能力を活用していること。ただし、病気・障がい・高齢・育児・介護などの事情で就労が困難な場合は、この要件は緩和されます。
③ あらゆる制度の活用 年金・雇用保険・児童手当・障がい者手帳に基づく各種給付など、他に利用できる給付・援助をすべて活用したうえで、それでも生活費が不足する状態であること。
④ 扶養義務者からの扶養 親・子・兄弟など扶養義務者からの援助(仕送りなど)を受けることができない、または受けても生活費が不足すること。
重要な誤解: 「扶養義務者への扶養照会(連絡)が必ずされる」と思い込み、申請をためらう方が多いです。しかし、DV・家族との絶縁・虐待歴・長年連絡が取れていないなどの事情がある場合は、扶養照会を省略・猶予できます。事情を担当者に正直に伝えましょう。
生活保護の「最低生活費」とはいくら?
自分が生活保護を受けられるかどうかの基準となるのが「最低生活費」です。最低生活費は、居住する地域(級地)・世帯構成・年齢・状況によって異なります。
目安(2024年度・東京都23区の場合):
| 世帯の状況 | 最低生活費の目安(月額) |
|---|---|
| 単身・65歳以上 | 約12〜13万円(住宅扶助含む) |
| 単身・40歳 | 約13〜15万円(住宅扶助含む) |
| 夫婦2人(40代) | 約19〜22万円(住宅扶助含む) |
| 夫婦+子1人(小学生) | 約22〜26万円(住宅扶助含む) |
自分(世帯)の収入・年金・手当などの合計が、この最低生活費を下回る場合に生活保護の対象となります。不足分が保護費として支給される仕組みです。
「持ち家・自動車があると申請できない」は誤解
よく聞かれる誤解を整理します。
- 持ち家がある場合: 原則として活用(売却)が求められますが、居住用の持ち家の場合は、活用が困難な状況であれば保有を認めて保護を受けられるケースがあります
- 自動車の保有: 原則として認められませんが、障がいのある方の通院・通勤に不可欠な場合などは例外的に認められることがあります
- 借金がある場合: 借金があっても生活保護申請は可能です。ただし、借金の返済に保護費を充てることは認められません。並行して債務整理の相談を行うケースが多いです
市役所での生活保護申請の手順

申請窓口はどこ?
生活保護の申請窓口は、居住する市区町村の福祉事務所です。多くの場合、市役所内に「生活保護課」「生活支援課」「社会福祉課」などの名称で設置されています。
市区町村に福祉事務所が設置されていない場合(主に小規模市町村)は、都道府県が設置する福祉事務所が担当します。
申請前:相談から申請まで
STEP 1:生活相談(相談は申請ではありません)
まず、市役所の福祉事務所の窓口に相談しに行きます。相談は申請ではないため、この段階で「申請しないといけない」ということにはなりません。ただし、「申請したい」という意思を明確に伝えることが重要です。
持参するものの目安:
- 本人確認書類(マイナンバーカード・運転免許証・保険証など)
- 通帳の写し(残高が分かるもの)
- 収入・年金・手当の確認書類(給与明細・年金通知書など)
- 家賃契約書(賃貸の場合)
- 病気・障がいがある場合は診断書(なくても申請可能)
STEP 2:申請書の提出
「申請したい」と申し出ると、生活保護申請書が交付されます。記入・署名して提出します。
重要: 窓口で「申請書をもらえない」「審査してみてから申請を検討してください」などと申請を先送りされるケースが全国で問題になっています。これは「水際作戦」と呼ばれる違法な行為です。「申請したい」という意思を示した段階で申請書を交付することは義務であり、拒否されたら「生活保護の申請書をください」と明確に求めてください。
申請後の調査・審査期間
申請書を提出した後、福祉事務所の担当ケースワーカーが以下の調査を行います。
- 家庭訪問(実態調査): 居住実態・生活状況の確認
- 資産調査: 預貯金・不動産・自動車等の保有状況の確認(金融機関等への照会)
- 収入調査: 給与・年金・手当等の収入状況の確認
- 扶養義務者への照会: 家族への援助可能性の確認(状況によって省略可)
審査結果の通知は、申請日から原則14日以内(特別な事情がある場合は最長30日以内)に書面で届きます。
申請が認められた場合(保護開始)
審査が通ると、保護開始決定通知書が届き、保護費の支給が始まります。支給は原則として月1回、現金(銀行振込)で行われます。
保護開始後は、担当ケースワーカーが定期的に家庭訪問を行い、生活状況の確認・自立支援に向けた相談に乗ってくれます。
申請が却下された場合の対処法

不服申し立て(審査請求)ができる
生活保護の申請が却下・廃止・変更された場合、その決定に不服があれば審査請求を行うことができます。
- 申請先: 都道府県知事
- 申請期限: 処分を知った日の翌日から3か月以内
- 手続き方法: 「審査請求書」を都道府県に提出
さらに審査請求の結果にも不服がある場合は、再審査請求(厚生労働大臣宛)または行政訴訟(取消訴訟)を提起することができます。
支援団体・専門家に相談する
申請却下・窓口でのトラブルが発生した場合は、一人で抱え込まず以下の支援機関に相談してください。
| 相談先 | 特徴 |
|---|---|
| 法テラス | 無料法律相談。収入基準あり。弁護士に生活保護の不服申し立てを相談できる |
| 生活保護問題対策全国会議 | 生活保護の権利擁護に取り組むNPO・弁護士団体 |
| 各地の弁護士会の法律相談 | 生活保護申請の同行支援を行う弁護士もいる |
| NPO・支援団体の生活相談 | 「よりそいホットライン」「ビッグイシュー」など |
生活保護申請に同行してもらえる支援

一人で市役所に行くことが不安・心細い場合、支援者・弁護士・NPOスタッフに申請に同行してもらうことは法的に認められています(行政機関は同行者の同席を拒否できません)。
全国の生活困窮者支援団体(地域ごとに異なります)が申請同行支援を行っているため、以下の窓口に相談してみてください。
- 生活困窮者自立支援制度の相談窓口(各市区町村設置)
- よりそいホットライン: 0120-279-338(24時間・無料)
- 生活保護問題対策全国会議の相談電話
- 法テラスの電話相談: 0570-078374
よくある不安・疑問への回答

「家族や親戚にバレる?」
生活保護の申請・受給は、原則として本人の同意なく第三者に知らされることはありません。ただし、扶養義務者(親・子・兄弟など)への「扶養照会」が行われた場合、そこから家族に伝わる可能性があります。
扶養照会を避けたい場合の対処:
- DV・虐待・ハラスメントの事実がある場合は、担当者にその旨を伝えれば照会が省略されます
- 長期間(概ね10年以上)連絡を取っていない・家族関係が断絶している場合も省略・猶予の対象となります
- 弁護士・支援団体に同行してもらい、事情を説明することで保護されやすくなります
「申請したら持ち物をすべて取り上げられる?」
そのような制度はありません。生活保護を受けながら保有できるものの例:
- 日常生活に必要な家具・家電・衣類
- 仕事に必要な道具・機材(就労用品)
- 自分名義の携帯電話・スマートフォン
- 通院・通学に必要な自転車
- 子どもの学習に必要な本・文具
ただし、明らかに贅沢品とみなされる資産(複数の不動産・高額の貴金属等)については処分を求められることがあります。
「生活保護を受けると働けなくなる?」
働くことは可能であり、むしろ自立に向けた就労は奨励されています。就労収入が生じた場合は、一定額が収入認定から控除(差し引き)されるため、全額保護費から引かれるわけではありません。
また、病気・障がいなどで就労が難しい方に対しては、就労支援プログラム(ハローワークとの連携・就労準備支援)を通じた段階的な自立支援が行われます。
「一度受けたらずっと受け続けなければならない?」
そのようなことはありません。生活保護は、収入が最低生活費を上回るようになれば廃止(脱却)することができます。また、一度廃止しても再度申請することも可能です。
生活状況が改善した場合は自ら申告し、担当ケースワーカーと相談のうえで廃止の手続きを進めます。
「生活保護受給中に貯金はできる?」
原則として、生活保護費を貯め込むことは認められていません。ただし、自立更生のための目的のある貯蓄(子どもの進学費用・就職活動費用など)は認められる場合があります。ケースワーカーに相談しながら進めることが重要です。
まとめ:生活保護は「あなたを守るための権利」

本記事の重要ポイントを整理します。
- 生活保護は憲法第25条が保障する権利であり、受けることは恥ずかしいことでも特別なことでもない
- 生活保護受給者は約202万人(2023年)。高齢者・傷病者・障がい者世帯が多数を占める
- 受給条件は「資産・能力・他制度・扶養」の4要件だが、状況に応じて柔軟に判断される
- 申請は市役所の福祉事務所(生活保護課・生活支援課等)へ。申請書の交付は義務であり拒否は違法
- 審査結果は申請日から原則14日以内に通知。却下された場合は3か月以内に審査請求できる
- 扶養照会が心配な場合はDV・家族断絶などの事情を担当者に伝えることで省略可能
- 一人で抱え込まず、NPO・法テラス・支援団体への相談と申請同行を積極的に活用する
生活に困ったとき、助けを求めることは勇気ある行動です。制度はあなたのために存在しています。まず一歩、市役所の窓口か支援機関の電話に連絡することから始めてください。
【緊急の場合の相談先】
- よりそいホットライン:0120-279-338(24時間・無料)
- 生活困窮者自立支援の相談窓口:お住まいの市区町村の社会福祉課・生活支援課
