「市議会議員は副業ができるの?」「会社員のまま議員を続けることはできる?」「農業や自営業と議員を兼業している人はいる?」「議員が副業することの問題点は何?」
「市議会議員は副業・兼業に制限があるのでは?」と思う方は多いですが、実は市議会議員は地方公務員とは異なり、副業・兼業に関して一般的な地方公務員ほど厳しい制限がありません。 会社員・農業従事者・自営業者が議員と兼業しているケースは全国に数多く存在します。
しかし、「何でもOK」というわけでもなく、利益相反・政治倫理・議員としての品位という観点から守るべきルールがあります。
本記事では、市議会議員の副業・兼業に関するルールの実態・許されること・問題になること・全国的な兼業議員の現状・今後の課題まで、具体的なデータをもとに徹底解説します。
市議会議員と「副業禁止」の誤解:一般公務員とは異なる

一般の地方公務員と市議会議員の違い
地方公務員法第38条は、一般の地方公務員(市役所職員など)に対して「任命権者の許可なしに営利企業への従事や営利目的の事業を行うことを禁止」しています。
しかし、市議会議員はこの規定の適用対象ではありません。
市議会議員は「特別職の地方公務員」という位置づけであり、一般職の地方公務員に適用される副業制限規定(地方公務員法第38条)が適用されません。
| 職種 | 適用される法律 | 副業・兼業の制限 |
|---|---|---|
| 市役所正規職員(一般職) | 地方公務員法第38条 | 原則禁止(任命権者の許可必要) |
| 市議会議員(特別職) | 地方自治法・各自治体の倫理条例 | 原則として自由(利益相反・倫理上の制限あり) |
| 市長・副市長(特別職) | 地方自治法・地方公務員法の一部 | 一定の制限あり(営利企業との兼業禁止など) |
「原則自由」だが守るべきルールがある
市議会議員の副業・兼業は「原則自由」ですが、以下の観点から守るべきルール・注意点があります。
- 地方自治法第92条の2(兼業禁止規定):特定の業種・関係者との兼業禁止
- 政治倫理条例:各自治体が独自に定める議員の行動規範
- 議員としての品位・信頼性:社会通念上問題のある業種・活動への従事は信用失墜につながる
- 利益相反:議員の立場を利用した不当な利益獲得は禁止
地方自治法第92条の2:最も重要な兼業禁止規定

「当該地方公共団体に対する承認関係者」との兼業禁止
地方自治法第92条の2は、以下の兼業を禁止しています。
「普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体に対し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない。」(地方自治法第92条の2)
分かりやすく言うと: 議員は自分が所属する市区町村と「請負関係(契約・取引)」のある会社・団体の役員や代表者になることが禁止されています。
禁止の趣旨と具体例
この規定の目的は「利益相反の防止」です。市と取引のある会社の役員が議員を兼ねていれば、議会の議決(予算・入札・許認可)において私的利益を優先する利益相反が生じる可能性があります。
禁止される兼業の具体例:
- 市の建設工事を受注している建設会社の取締役
- 市の物品・サービスを納入している会社の代表
- 市から補助金を受けている法人(主として同一行為)の役員
判断の基準「主として」: 「主として同一の行為をする法人」という表現が鍵で、売上全体の中で市との取引が占める割合が高い場合に兼業禁止と判断されます(詳細な基準は判例・行政解釈による)。
違反した場合の効果
地方自治法第92条の2の兼業禁止規定に違反した場合、議員としての被選挙権が失われ、失職となります(地方自治法第127条)。
市議会議員に認められる主な副業・兼業

全国的に一般的な兼業の実態
前述の禁止規定に該当しない副業・兼業は、法律上自由に行えます。全国の市議会議員の中で一般的に見られる兼業の実態を整理します。
① 農業・林業・漁業 特に地方の小規模自治体では、農業・林業・漁業などの1次産業と議員を兼業しているケースが圧倒的に多いです。「兼業農家として農地を管理しながら議員活動を行う」という形は、農村部の議会では標準的なスタイルです。
② 自営業(小売・サービス・飲食など) 個人で経営する商店・サービス業・飲食店・整骨院などを経営しながら議員を務めるケースも全国に多くあります。市との直接的な請負関係がなければ、兼業禁止規定には抵触しません。
③ 会社員(サラリーマン) 近年特に注目されている形態が「会社員議員」です。平日に通常勤務をしながら、議会の開催日(年間30〜60日程度)に出席する形で議員活動を行います。
全国市議会議長会の調査によると、市議会議員のうち何らかの職業を持ちながら議員活動を行っている「兼業議員」の割合は全体の約40〜45%程度とされています。特に小規模自治体・地方都市では兼業議員が多数派です。
④ 医師・弁護士・税理士などの専門職 医師・弁護士・税理士・建築士などの専門職は、市との請負関係がない範囲で業務を継続しながら議員を務めることができます。専門知識を行政・政策に活かすという観点からも有益なケースが多いです。
⑤ 不動産賃貸・資産運用 不動産賃貸収入・株式投資・投資信託・FXなどの資産運用は、市との請負関係に当たらないため一般的に兼業禁止の対象外です。
⑥ 執筆・講演・メディア出演 著書の印税・コラム執筆料・講演料・テレビ・ラジオ出演料なども、議員としての活動から直接発生する特別な利益でなければ問題ありません。ただし、議員の立場を利用した不当な利益獲得とならないよう注意が必要です。
問題になりやすい「グレーゾーン」の副業

グレーゾーン①:市から補助金・助成金を受けている事業への関与
市から補助金・助成金を受けている団体(NPO・商工会・農業組合など)の役員に就いている場合、「主として同一の行為をする法人」に該当するかどうかが問題になることがあります。
補助金額が売上全体の一部であれば問題ないケースも多いですが、補助金依存度が高い団体の代表者が議員を兼ねる場合は慎重な判断が必要です。
グレーゾーン②:議員活動を「業務」として収益化する
政治活動・議員活動そのものから直接的に収益を得るような行為(特定の利益団体から多額の「顧問料」を受け取るなど)は、利益相反・倫理的問題として批判を受けやすいです。
グレーゾーン③:議員の立場を利用したビジネス
「議員だから○○会社と取引できた」という形で、議員の立場・影響力を利用して自分のビジネスに有利な状況を作り出すことは、政治倫理条例・議会の品位という観点から問題視されます。
グレーゾーン④:マルチ商法・ネットワークビジネスへの参加
法律上は直接禁止されていませんが、議員がマルチ商法(連鎖販売取引)に参加することは信用失墜行為として批判を受けやすく、議会内での処分対象になるケースもあります。
「会社員議員」という新しい潮流

現役世代が議員になりやすくする動き
近年、全国各地で「会社員のまま議員ができる環境整備」を進める動きが活発化しています。
背景にある問題:
- 議員のなり手不足(特に現役世代・女性の参入不足)
- 「議員になるには仕事を辞めなければならない」という誤解と現実
- 議会の開催日程が平日日中に集中しているという構造的問題
改善の動き:
- 議会のオンライン開催・夜間開催の試み
- 有給休暇取得のしやすい環境整備(育児介護休業法の適用強化)
- 兼業しやすい議会運営ガイドラインの策定
総務省「多様な人材が参画し住民に開かれた地方議会の実現に向けた研究会(2023年)」の報告書では、会社員・育児中の方・専門職などが兼業で議員活動を行いやすい環境整備が重要課題として提言されています。
会社員議員が直面する現実的な課題
「会社員議員」を続けることは法律上は可能ですが、実際には以下の課題があります。
① 議会への出席と仕事の両立 本会議・委員会は平日の昼間に開催されることが多く、有給休暇・欠勤対応が必要です。議会が年間30〜60日程度開かれることを考えると、毎年大量の有給休暇を使わなければなりません。
② 会社の理解と就業規則 会社によっては「議員活動(副業)を許可しない」という就業規則を持つ場合があります。会社員が議員になる前に、会社の就業規則・上司への相談が不可欠です。
③ 給与・待遇への影響 議員活動のための頻繁な休暇取得が、会社での評価・昇進・給与に影響する可能性があります。
④ 精神的・肉体的な負担 「会社の仕事+議員活動」という二重の責任を担うことは、体力的・精神的に非常に大きな負担です。
議員の副業・兼業を巡る論点

賛成派の主な意見
① 多様な職業・経験を持つ人材が議会に参入できる さまざまな職業を持つ議員が増えることで、医療・農業・IT・教育など多様な分野の専門知識が政策に反映されやすくなります。
② 「議員業=特権的な専業」からの脱却 報酬・年収だけを目当てにする「職業議員」ではなく、実社会での経験と問題意識を持つ市民が議員になることで、住民に近い政治が実現できます。
③ 小規模自治体の議会維持に不可欠 報酬が月額10〜15万円の自治体では、兼業なしで議員活動を続けることは経済的に不可能です。兼業議員の存在が議会の維持そのものを支えています。
反対派・慎重派の主な意見
① 利益相反リスクの増大 副業・兼業の自由度が高いほど、議員の立場と私的ビジネスの利益が交錯するリスクが高まります。
② 議員活動への専念が難しくなる 「仕事が忙しくて議会を欠席」「本業優先で政策研究が疎かになる」という状況では、議員としての役割が十分に果たされません。
③ 情報公開・透明性の問題 兼業内容・収入が適切に開示されなければ、住民が利益相反を監視することができません。
議員の副業に関する情報開示:政治倫理条例

資産公開・兼業報告の義務
多くの市区町村では「政治倫理条例」によって、議員に対して以下の情報公開を義務づけています。
| 公開義務の内容 | 目的 |
|---|---|
| 資産等報告書の提出・公開 | 議員の資産状況(不動産・預貯金・株式など)を住民が確認できるようにする |
| 兼業・関連会社の申告 | 地方自治法第92条の2への抵触の有無を確認する |
| 所得・収入源の報告 | 利益相反の有無を住民が判断できるようにする |
よくある質問(FAQ)

Q. 議員が市内の会社の「株主」であることは問題ある?
A. 単なる株主(投資家)であれば、地方自治法第92条の2の兼業禁止規定に該当しないのが一般的です。問題になるのは「取締役・執行役などの役員」に就くケースです。ただし、大株主として会社の経営に実質的に関与している場合は判断が複雑になるため、選挙管理委員会・弁護士への確認が推奨されます。
Q. 副業(兼業)の内容は住民に公開しなければならない?
A. 政治倫理条例を制定している自治体では、兼業の有無・内容を資産等報告書の一部として提出・公開する義務があります。ただし、政治倫理条例がない自治体や詳細な申告義務がない自治体では、実態が把握しにくいという問題があります。「透明性の確保」という観点から、情報公開の強化を求める声が高まっています。
Q. 市議会議員の妻が市との請負関係のある会社を経営していても問題ない?
A. 地方自治法第92条の2の適用対象は議員本人です。配偶者が経営する会社が市との請負関係を持つこと自体は直接の違反にはなりませんが、実質的に議員が影響力を及ぼしている場合や、利益相反に見えるような状況は政治倫理上の問題を生む可能性があります。実態的な支配関係・関与の有無によって判断が変わります。
Q. 議員になると確定申告が必要になる?
A. 必要です。議員報酬は「事業所得」に近い性格を持ち、毎年確定申告が必要です。副業・兼業からの収入もあわせて申告します。政務活動費の収支報告・経費の計上なども確定申告の場で処理するため、税理士に相談することをおすすめします。
まとめ:市議会議員の副業は「原則自由だが利益相反に注意」

本記事の重要ポイントをまとめます。
- 市議会議員は一般の地方公務員と異なり、副業・兼業は原則として自由(地方公務員法第38条の適用対象外)
- ただし地方自治法第92条の2により、市との請負関係にある会社の役員への就任は禁止
- 全国の議員の約40〜45%は何らかの職業を持つ兼業議員。農業・自営業・会社員・専門職など多様
- 「会社員議員」は法律上可能だが、議会出席と本業の両立・会社の理解という現実的な課題がある
- 副業・兼業の利益相反リスク・グレーゾーン(補助金受給団体の役員・立場を利用したビジネスなど)への注意が必要
- 多くの自治体の政治倫理条例によって兼業内容・資産の公開義務が課されている
- 多様な人材の議会参入のため「兼業しやすい議会環境の整備」が全国的な課題
市議会議員の副業・兼業は、地方議会の多様性確保と利益相反防止という二つの要請を同時に満たす難しい課題です。「どんな副業も自由」でも「すべて禁止」でもなく、適切なルールと透明性のもとで多様な人材が議会に参加できる仕組みを作ることが、健全な地方民主主義への道です。
