「地方公務員って実際どんな仕事をしているの?」「窓口業務だけ?」地方公務員に興味を持つ方なら、具体的な仕事内容について知りたいと思うのは当然です。
地方公務員の仕事は、市役所の窓口業務だけではありません。
住民サービスから政策立案、インフラ整備、福祉、教育、防災まで、実に多岐にわたります。
配属される部署によって業務内容は大きく異なり、それぞれにやりがいと大変さがあります。
本記事では、地方公務員の仕事内容を部署別に詳しく解説し、1日のスケジュール例や年間業務の流れ、やりがいと大変さまで、リアルな実態をお伝えします。
これから地方公務員を目指す方、転職を考えている方の疑問を解消します。
地方公務員の仕事とは?基本的な役割

地方公務員の使命
地方公務員は、都道府県や市区町村などの地方自治体に勤務し、地域住民の生活を支え、地域社会の発展に貢献することが使命です。
地方自治法第1条の2では、地方自治体の役割として「住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する」と定められています。
この理念を実現するために、地方公務員は日々様々な業務に取り組んでいます。
地方公務員が担う主な業務分野
地方公務員の業務は大きく以下の分野に分類されます。
住民サービス:戸籍、住民票、各種証明書の発行など、住民の生活に直結する窓口業務
福祉・保健:生活保護、児童福祉、高齢者支援、障害者支援、保健衛生など
都市計画・建設:道路や公園の整備、都市開発、住宅政策、上下水道の管理など
産業振興:商工業支援、農林水産業振興、観光振興、企業誘致など
教育・文化:教育政策の立案、学校運営、図書館・文化施設の管理など
環境・衛生:ごみ処理、リサイクル推進、環境保全、公害対策など
防災・安全:防災対策、危機管理、消防、交通安全など
財政・税務:予算編成、税金の賦課徴収、財産管理など
企画・総務:自治体の政策立案、広報、人事、情報管理など
これらの業務を通じて、住民の「ゆりかごから墓場まで」を支えるのが地方公務員の仕事です。
部署別の仕事内容詳細

市民課・住民課(窓口業務)
主な業務内容
市民課や住民課は、地方公務員の仕事として最もイメージされやすい部署です。住民と直接接する窓口業務が中心となります。
戸籍事務
出生届、婚姻届、死亡届などの受理と戸籍簿への記載。法律に基づく正確な処理が求められます。
住民基本台帳事務
転入・転出・転居届の受理、住民票の発行、マイナンバーカードの交付など。
各種証明書の発行
印鑑登録証明書、戸籍謄本・抄本、住民票の写しなど、様々な証明書を発行します。
国民健康保険・国民年金の手続き
加入・脱退の受付、保険証の発行、年金の届出受理など。
やりがいと大変さ
住民から直接「ありがとう」と言われることが多く、自分の仕事が役立っていることを実感できます。一方で、理不尽なクレームを受けることもあり、接客スキルと忍耐力が必要です。繁忙期(3月~4月の異動シーズン)は窓口が非常に混雑し、残業も増えます。
福祉部門
主な業務内容
福祉部門は、生活困窮者や高齢者、障害者、子どもなど、支援が必要な住民をサポートする部署です。
生活保護担当(ケースワーカー)
生活保護の申請受付、調査、支給決定を行います。定期的に受給者宅を訪問(家庭訪問)し、生活状況を確認します。自立支援のための相談・助言も重要な業務です。
一人のケースワーカーが担当する世帯数は、社会福祉法で標準80世帯とされていますが、実際には100世帯以上を担当するケースも多く、業務量は膨大です。
高齢者福祉
介護保険の申請受付と認定調査、高齢者向けサービスの提供、地域包括支援センターとの連携などを行います。
障害者福祉
障害者手帳の交付、障害福祉サービスの支給決定、相談支援などを担当します。
児童福祉
児童手当の支給、保育所の入所調整、児童虐待の相談対応など、子どもと家庭を支える業務です。児童虐待対応では、24時間体制で緊急対応が必要なこともあります。
やりがいと大変さ
困っている住民の生活を直接支援でき、「あなたのおかげで助かりました」という感謝の言葉をいただくことがやりがいです。一方で、精神的負担が大きい仕事でもあります。生活困窮や虐待など、深刻な問題に向き合う必要があり、休日でも緊急対応の電話がかかってくることもあります。
税務部門
主な業務内容
税務部門は、住民税や固定資産税などの賦課徴収を担当する部署です。自治体の財源を確保する重要な役割を担っています。
賦課業務
住民税や固定資産税などの税額を計算し、納税通知書を発送します。法律や条例に基づいた正確な計算が求められます。
徴収業務
税金の納付を促し、滞納者への督促や催告、場合によっては差し押さえなどの滞納処分を行います。
課税調査
固定資産の実地調査、家屋調査など、適正な課税のための調査を実施します。
窓口相談
納税相談、納税証明書の発行、税制度の説明などを行います。
やりがいと大変さ
自治体の財政を支える重要な仕事であり、正確な業務遂行による達成感があります。しかし、税金という住民にとって負担となるものを扱うため、苦情や厳しい意見を受けることも多いです。特に徴収業務では、滞納者との交渉が精神的に負担となることもあります。
都市計画・建設部門
主な業務内容
まちづくりやインフラ整備を担当する部署で、技術職(土木、建築など)が多く配属されます。
都市計画
都市計画マスタープランの策定、用途地域の指定、開発許可などを行います。長期的な視点でまちの将来像を描きます。
道路・公園整備
道路の新設・改修工事の計画と実施、公園の整備・維持管理を担当します。工事の設計、発注、監督までを一貫して行います。
建築指導
建築確認申請の審査、違反建築物の指導・是正などを行います。建築基準法に基づく専門的な知識が必要です。
住宅政策
市営住宅の管理、住宅支援制度の運営などを担当します。
やりがいと大変さ
自分が関わった道路や公園が完成し、住民に利用されている姿を見ることが大きなやりがいです。形として残る仕事であり、達成感があります。一方で、工事に対する住民からの苦情対応や、夜間・休日の工事立会いなど、時間外の業務も発生します。
企画・政策部門
主な業務内容
自治体の政策立案や総合調整を担当する、いわば自治体の「頭脳」となる部署です。
総合計画の策定
自治体の最上位計画である総合計画の策定・進行管理を行います。自治体の将来ビジョンを描く重要な仕事です。
予算編成の調整
各部署からの予算要求を精査し、財政部門と調整しながら予算案を作成します。
地方創生・地域活性化
人口減少対策、移住定住促進、地域活性化事業の企画・実施を担当します。
広報・広聴
広報誌の発行、ホームページの運営、SNSでの情報発信、住民からの意見聴取などを行います。
政策研究
先進事例の調査、データ分析、新規施策の提案などを行います。
やりがいと大変さ
自治体の方向性を決める政策に関わることができ、スケールの大きな仕事にやりがいを感じます。また、斬新なアイデアが採用されれば、全国的に注目されることもあります。一方で、議会対応や首長への説明資料作成など、プレッシャーの大きい業務も多く、残業も多めです。
教育委員会
主な業務内容
教育行政を担当する部署で、学校教育と社会教育の両面を支援します。
学校教育
教員の人事管理、学校施設の整備、教育カリキュラムの支援、いじめ・不登校対応などを行います。
社会教育
図書館、公民館、文化施設の運営、生涯学習講座の企画・実施などを担当します。
文化財保護
地域の文化財の調査、保存、活用を行います。埋蔵文化財の発掘調査なども実施します。
スポーツ振興
スポーツ施設の管理、スポーツイベントの開催などを担当します。
やりがいと大変さ
子どもたちの教育環境を整える仕事であり、将来を担う世代を支えることにやりがいを感じます。保護者や教員、地域住民など、多様なステークホルダーとの調整が必要で、コミュニケーション能力が求められます。
環境・清掃部門
主な業務内容
ごみ処理やリサイクル、環境保全など、地域の環境を守る業務を担当します。
廃棄物処理
ごみ収集の管理、ごみ処理施設の運営、リサイクルの推進などを行います。
環境保全
公害の監視・指導、環境影響評価、自然保護などを担当します。
地球温暖化対策
省エネルギー施策の推進、再生可能エネルギーの導入促進などを行います。
やりがいと大変さ
環境問題という社会的に重要なテーマに取り組めることがやりがいです。ただし、ごみ処理施設の建設などでは住民の反対運動に直面することもあり、粘り強い説明と調整が必要です。
産業振興・観光部門
主な業務内容
地域経済の活性化を担う部署で、近年重要性が増している分野です。
商工業支援
中小企業への融資制度運営、創業支援、商店街活性化などを行います。
農林水産業振興
農業者への補助金交付、6次産業化支援、担い手育成などを担当します。
観光振興
観光PR、観光イベントの企画・実施、観光資源の開発などを行います。
企業誘致
企業の誘致活動、工業団地の整備などを担当します。
やりがいと大変さ
自分の企画したイベントが成功したり、誘致した企業が地域に雇用を生んだりすることにやりがいを感じます。一方で、成果が数字で評価される側面もあり、プレッシャーも大きい仕事です。
地方公務員の1日の流れ(職種別)

一般行政職の1日
標準的なスケジュール
7:30 起床、出勤準備
8:30 出勤、メール・書類確認、今日の予定確認
9:00 窓口対応・来客対応
10:00 定例会議(部内・課内)
11:00 デスクワーク(書類作成、データ入力)
12:00 昼休憩
13:00 外出(現地調査、関係機関との打ち合わせ)
15:30 帰庁、報告書作成
16:30 住民からの電話相談対応
17:15 明日の準備、デスク整理
17:30 退庁
残業の有無は部署によって大きく異なり、定時で帰れる部署もあれば、月40時間以上残業する部署もあります。


技術職(土木)の1日
標準的なスケジュール
8:00 出勤、工事進捗状況確認
8:30 工事現場へ移動(1箇所目)
9:00 現場監督、施工状況確認、業者との打ち合わせ
10:30 次の現場へ移動(2箇所目)
11:00 現場監督、測量立会い
12:30 昼休憩(現場近くで)
13:30 庁舎に戻り、設計業務
15:00 工事関係書類の確認・押印
16:00 住民からの道路補修要望の現地確認
17:30 報告書作成
18:30 退庁
現場作業が多いため、デスクワークと現場作業の両方をこなす必要があります。
天候に左右されることも多い仕事です。
福祉職(ケースワーカー)の1日
標準的なスケジュール
8:30 出勤、当日訪問世帯の情報確認
9:00 窓口相談、生活保護の新規申請対応
10:30 保護世帯への家庭訪問(1件目)
12:00 昼食(移動中に済ませることも)
13:00 家庭訪問(2件目、3件目)
15:30 帰庁、訪問記録の作成、ケース記録の更新
17:00 上司への報告、ケース検討
18:00 明日の訪問準備
18:30 退庁
精神的負担が大きく、業務時間外にも緊急の電話がかかってくることがあります。
地方公務員の年間業務サイクル

地方公務員の仕事は、1年を通じて一定のサイクルがあります。
4月~5月:年度初め
- 新規採用職員の受け入れ・研修
- 新年度予算の執行開始
- 人事異動後の業務引継ぎ
- 住民税・固定資産税の納税通知書発送(税務部門)
6月~8月:前期
- 通常業務の遂行
- 議会定例会(6月議会)の対応
- 夏季イベントの実施(観光、文化)
9月~11月:中期
- 議会定例会(9月議会)の対応
- 次年度予算の要求作業開始
- 各種事業の中間評価
12月~1月:年度末準備
- 議会定例会(12月議会)の対応
- 次年度予算案の最終調整
- 年末年始の窓口業務調整
2月~3月:年度末
- 議会定例会(2月・3月議会)の対応
- 次年度予算の議決
- 年度末の業務整理、決算準備
- 人事異動の内示・発令
- 繁忙期(住民の異動が多い)
特に2月~3月は「年度末」として最も忙しい時期で、予算関係、決算準備、人事異動、住民の引越しシーズンが重なり、多くの部署で残業が増えます。
地方公務員の仕事のやりがいと大変さ

やりがい
地域への貢献を実感できる
自分の仕事が地域住民の生活を直接支え、まちづくりに貢献していることを実感できます。「ありがとう」という言葉を直接いただける機会も多いです。
多様な経験ができる
数年ごとに部署異動があり、福祉、税務、都市計画など、様々な分野を経験できます。幅広い知識とスキルが身につきます。
政策に関われる
自分のアイデアが施策として実現し、地域を変えていく醍醐味があります。特に企画部門では、自治体の方向性を決める重要な仕事に携わることができます。
安定性がある
雇用が安定しており、長期的なキャリア形成が可能です。育児休業なども取得しやすく、ワークライフバランスを重視できます。
大変さ
様々な住民対応
理不尽なクレームや厳しい意見を受けることもあります。感情的になっている住民に対して、冷静に対応する能力が求められます。
法令遵守の厳格さ
法律や条例に基づいて厳密に業務を遂行する必要があり、ミスが許されないプレッシャーがあります。
異動による専門性の難しさ
数年ごとに部署が変わるため、一つの分野で専門性を深めにくい側面があります。異動のたびに新しい知識を学ぶ必要があります。
繁忙期の業務集中
年度末や議会前など、特定の時期に業務が集中し、残業が増えることがあります。
成果が見えにくい業務もある
すぐに成果が出ない長期的な事業も多く、達成感を得にくい場合もあります。
よくある質問(FAQ)

Q1:デスクワークが中心ですか、それとも外出が多いですか?
A:部署によって大きく異なります。窓口業務や企画部門はデスクワーク中心ですが、福祉職は家庭訪問が多く、技術職は現場視察が頻繁にあります。また、同じ部署でも担当業務によって変わります。
Q2:残業は多いですか?
A:部署と時期によります。定時で帰れる部署もあれば、月40時間以上残業する部署もあります。特に企画部門、税務部門(繁忙期)、福祉部門は残業が多めです。全体的には民間企業の平均より少ない傾向にあります。
Q3:パソコンスキルはどの程度必要ですか?
A:Word、Excel、PowerPointの基本操作は必須です。特にExcelは関数やグラフ作成ができるレベルが求められます。専門的なプログラミングスキルは不要ですが、業務システムの操作を覚える必要があります。
Q4:希望の部署に配属されますか?
A:必ずしも希望通りにはなりません。採用時に希望調査はありますが、組織の人事配置の都合で決定されます。ただし、技術職は専門分野の部署に配属される可能性が高いです。数年ごとの異動により、様々な部署を経験することになります。
Q5:民間企業からの転職者はどんな部署に配属されやすいですか?
A:社会人経験者採用の場合、前職での経験を活かせる部署に配属されることが多いです。例えば、金融機関出身者は財政部門、IT企業出身者は情報管理部門、営業職経験者は産業振興部門などです。
Q6:住民からのクレームにはどう対応しますか?
A:まず相手の話をしっかり聞き、共感を示すことが基本です。その上で、法令や制度に基づいて丁寧に説明します。一人で対応が難しい場合は上司に相談し、組織として対応します。研修でクレーム対応のスキルも学びます。
まとめ:地方公務員の仕事は多様でやりがいがある

重要ポイントの再確認
仕事内容は非常に多岐にわたり、窓口業務だけでなく、政策立案、インフラ整備、福祉、教育など様々な分野があります。
配属部署によって業務内容は大きく異なり、デスクワーク中心の部署もあれば、現場に出ることが多い部署もあります。
住民の生活を直接支える仕事であり、地域への貢献を実感できることが大きなやりがいです。
数年ごとに部署異動があり、様々な経験を積めますが、専門性を深めにくい側面もあります。
大変なこともありますが、安定性があり、ワークライフバランスも取りやすい職業です。
最後に
地方公務員の仕事は、想像以上に幅広く、奥深いものです。どの部署でも、住民の生活を支え、より良い地域社会を作るという共通の目的があります。
これから地方公務員を目指す方は、自分がどんな分野で地域に貢献したいかをイメージしながら、具体的な仕事内容を研究してみてください。説明会や職場見学に参加すると、よりリアルな仕事内容を知ることができます。
