地方公務員法は、都道府県や市町村などの地方公共団体に勤務する職員の身分、任用、服務、労働関係などを定めた基本法です。
1950年に制定され、地方自治の本旨の実現を目的として、公務員の義務や権利、懲戒処分などが詳細に規定されています。
本記事では、地方公務員法の全体像を初心者の方にもわかりやすく解説します。
地方公務員法とは

法律の目的(第1条)
地方公務員法第1条では、この法律の目的が明記されています。
「地方公共団体の行政の民主的かつ能率的な運営並びに特定地方独立行政法人の事務及び事業の確実な実施を保障し、もって地方自治の本旨の実現に資すること」を地方公務員法は目的としています。
簡単に言えば、地方公共団体が国の命令にそのまま従うのではなく、民主的かつ能動的に運営されるよう、公務員制度の根本基準を定めた法律です。
制定の経緯
1950年(昭和25年)12月13日に公布され、1951年2月13日に施行されました。
日本国憲法が地方自治の保障を盛り込んだことを受けて、1947年に地方自治法が制定されましたが、地方公務員の身分取り扱いについては別途法律で定めることとされ、数年の検討を経て地方公務員法が制定されました。
適用範囲
一般職の地方公務員すべてに適用されますが、特別職の地方公務員については、法律に特別の定めがある場合を除き適用されません(第4条第2項)。
一般職と特別職の違い
- 一般職:特別職以外のすべての職員(行政職、技術職、教員など)
- 特別職:知事、市町村長、議員、消防団員、非常勤の委員など
地方公務員法の基本原則

1. 平等取扱の原則(第13条)
すべて国民は、地方公務員になる権利を有し、人種、信条、性別、社会的身分、門地によって差別されることはありません。
2. 成績主義の原則(第15条)
職員の任用は、受験成績、人事評価その他の能力実証に基づいて行われなければなりません。
情実による採用や昇進は認められません。
3. 平等取扱の原則
受験の機会の平等、採用試験における公正性、能力主義に基づく人事管理などが求められます。
4. 条例主義の原則
給与、勤務時間などの勤務条件は条例で定めなければなりません(第24条第5項)。
これは国家公務員法にはない地方公務員法独自の規定です。
5. 身分保障の原則
法律または条例で定められている理由がない限り、解雇されたり、給料を減額されたりすることはありません。
地方公務員の義務

地方公務員には、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務するため、以下のような義務が課されています。
1. 服務の宣誓(第31条)
職員は、条例で定める宣誓書に署名しなければなりません。
「私は、ここに主権が国民に存することを認める日本国憲法を尊重し、かつ擁護することを固く誓います」などの内容を宣誓します。
2. 法令等及び上司の職務命令への服従義務(第32条)
職員は、その職務を遂行するに当たって、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、かつ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければなりません。
ただし、違法な命令や人権を侵害する命令には従う必要はありません。
3. 信用失墜行為の禁止(第33条)
職員は、その職の信用を傷つけ、または職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはなりません。
具体例
- 飲酒運転
- 職務外での犯罪行為
- 不適切なSNS投稿
- セクシュアルハラスメント
4. 守秘義務(第34条)
職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはなりません。
退職後も同様です。
具体例
- 住民の個人情報の漏洩
- 職務上知り得た機密情報の漏洩
- 税務情報や福祉情報の漏洩
守秘義務に違反すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます(第60条)。
5. 職務専念義務(第35条)
職員は、勤務時間および職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用いなければなりません。
勤務時間中は私的な活動をしてはいけません。
ただし、休憩時間や組合活動のための職免など、例外が認められる場合もあります。
6. 政治的行為の制限(第36条)
職員は、政治的中立性を保つため、特定の政党や政治的目的のための一定の行為が制限されています。
制限される行為の例
- 特定の政党や候補者を支持する目的での署名運動
- 職員を特定政党の党員にするための勧誘行為
- 政治的目的を持った寄付金の募集
ただし、投票や個人としての政治的意見の表明は制限されません。
7. 争議行為等の禁止(第37条)
職員は、地方公共団体の機関の活動能率を低下させる怠業的行為、地方公共団体の機関の使用する施設の占拠、同盟罷業、怠業その他の争議行為をしてはなりません。
民間企業の労働者に認められるストライキ権が、公務員には認められていません。
違反すると解雇されることがあります。
8. 営利企業等の従事制限(第38条)
職員は、任命権者の許可を受けなければ、営利企業を営んだり、報酬を得て事業や事務に従事してはなりません。
2025年6月の総務省通知により、一定の条件下で副業が許可されるようになりましたが、無許可での副業は引き続き禁止されています。


地方公務員の権利と利益の保護

1. 勤務条件に関する措置要求(第46条)
職員は、給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、人事委員会または公平委員会に対して、地方公共団体の当局により適当な措置が執られるべきことを要求することができます。
2. 不利益処分に関する不服申立て(第49条)
職員は、懲戒処分その他その意に反する不利益な処分を受けたときは、人事委員会または公平委員会に対して不服申立てをすることができます。
3. 団結権・団体交渉権の保障(第52条)
職員は、職員団体(労働組合)を結成し、加入することができます。
また、当局と団体交渉を行うことも認められています。
ただし、団体協約締結権や争議権は認められていません。
4. 研修を受ける機会の保障(第39条)
職員には、研修を受ける機会が保障されています。
資質の向上と能力の開発を図るため、さまざまな研修を受ける機会があります。
5. 厚生福利制度(第42条)
地方公共団体は、職員の保健、元気回復その他厚生に関する事項について計画を樹立し、実施しなければなりません。
分限と懲戒

分限処分(第27条・第28条)
分限処分は、公務の能率維持を目的として、職員の意に反して行われる不利益処分です。
分限処分の種類
- 降任:下位の職に移すこと
- 免職:職を失わせること
- 休職:職を保有させたまま職務に従事させないこと
- 降給:給料を減額すること
分限処分の事由
- 勤務成績が悪い場合
- 心身の故障により職務遂行ができない場合
- 適格性を欠く場合
- 職の廃止や過員を生じた場合
懲戒処分(第29条)
懲戒処分は、服務違反に対する制裁として行われます。
懲戒処分の種類
- 戒告:最も軽い処分で、口頭または書面による注意
- 減給:一定期間、給料の一定割合を減額
- 停職:一定期間、職務に従事させず、給料も支給しない
- 免職:職を失わせる最も重い処分
懲戒処分の事由
- 法律・条例違反
- 職務上の義務違反
- 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行
定年制度(第28条の2以降)

地方公務員の定年は原則として60歳でしたが、2023年4月から段階的に65歳まで引き上げられています。
2031年度には完全に65歳定年となります。
定年引上げスケジュール
- 2023年度:61歳
- 2025年度:62歳
- 2027年度:63歳
- 2029年度:64歳
- 2031年度:65歳
人事機関(第7条以降)

人事委員会と公平委員会
地方公共団体には、人事機関として人事委員会または公平委員会が設置されます。
人事委員会 都道府県、政令指定都市に設置。その他の市にも設置できます。採用試験、給与勧告、不服申立ての審査など幅広い権限を持ちます。
公平委員会 人事委員会を設置しない市町村に設置。主に不服申立ての審査を行います。
これらの機関は、首長や議会から独立した立場で、公正な人事行政を確保する役割を果たしています。
国家公務員法との違い

主な相違点
- 給与条例主義 地方公務員法では給与や勤務条件を条例で定める必要がありますが、国家公務員法では法律や人事院規則で定められます。
- 労働基準法の適用 地方公務員には労働基準法の一部が適用されます(第58条第3項)が、国家公務員には原則として適用されません。
- 人事機関の構成 国は人事院、地方は人事委員会または公平委員会が設置されます。
- 副業規制 地方公務員の方が副業の柔軟化が進んでおり、2025年6月から条件付きで許可されやすくなっています。
よくある質問

Q1: 地方公務員法は誰に適用されますか?
A: 一般職の地方公務員すべてに適用されます。特別職(知事、市町村長、議員、非常勤の委員など)には原則として適用されません。
Q2: 守秘義務は退職後も続きますか?
A: はい。第34条の守秘義務は退職後も継続します。違反すると刑事罰の対象となります。
Q3: 副業は完全に禁止されていますか?
A: いいえ。2025年6月の総務省通知により、任命権者の許可があれば一定の副業が可能になりました。ただし、無許可での副業は引き続き禁止されています。
Q4: 懲戒処分と分限処分の違いは何ですか?
A: 懲戒処分は服務違反に対する制裁、分限処分は公務の能率維持を目的とした処分です。懲戒は職員の非行に対するペナルティ、分限は能力不足や組織変更への対応という違いがあります。
Q5: 政治活動は一切できませんか?
A: 投票や個人としての政治的意見の表明は自由です。制限されるのは、特定の政党や候補者を支持する組織的な活動です。
Q6: ストライキはなぜ禁止されているのですか?
A: 公務は国民生活に直結するため、業務停止により国民に重大な影響を与える可能性があるからです。その代わり、勤務条件の改善について人事委員会に措置要求できる制度があります。
まとめ:地方公務員法を正しく理解する

地方公務員法は、地方公務員の身分、義務、権利を定めた基本法であり、地方自治の本旨の実現を目的としています。
地方公務員法の重要ポイント
- 目的:地方自治の本旨の実現
- 適用対象:一般職の地方公務員
- 制定:1950年12月、施行:1951年2月
- 基本原則:平等取扱、成績主義、条例主義、身分保障
8つの主な義務
- 服務の宣誓
- 法令等及び上司の命令への服従
- 信用失墜行為の禁止
- 守秘義務
- 職務専念義務
- 政治的行為の制限
- 争議行為等の禁止
- 営利企業等の従事制限
保障される権利
- 勤務条件に関する措置要求
- 不利益処分に関する不服申立て
- 団結権・団体交渉権
- 研修を受ける機会
- 厚生福利制度
処分制度
- 分限処分:能率維持のための処分(降任・免職・休職・降給)
- 懲戒処分:服務違反への制裁(戒告・減給・停職・免職)
最後に
地方公務員法は、公務員として働く上での基本的なルールを定めた重要な法律です。
全体の奉仕者として公共の利益のために働くためには、この法律を正しく理解し、遵守することが求められます。
詳しい条文や最新の改正情報については、e-Gov法令検索の地方公務員法ページをご確認ください。

