「募集が出ても前任者が採用されるって本当?」「外部から応募しても無駄なの?」会計年度任用職員の採用について、「出来レース」という言葉をネット上でよく目にします。
本記事では、出来レースの実態、法的な仕組み、見分け方、そして応募者が知っておくべき対処法まで、客観的なデータと事例を交えて徹底解説します。
「出来レース」とは何か

定義と意味
会計年度任用職員の採用における「出来レース」とは、「職員公募や選考は行われるが、採用する人が公募前から内々に決まっていること」を指します。
一般的な「出来レース」のイメージ
- 前任者の継続雇用が内定している
- 現職員を形式的に面接で選考している
- 外部からの応募者は当て馬扱い
- 公募の形だけ整えている
出来レースは本当に存在するのか

制度上は「できない」が建前
結論からいえば、会計年度任用職員の採用における出来レースはできません。
総務省が作成したマニュアルでは、以下のように規定されています。
総務省マニュアルの規定
- ホームページで広く募集を行うこと
- 年齢や性別にかかわりなく均等な機会を与えること
- 能力の客観的評価を行うこと
実態は「9割が継続雇用」
一方で、「会計年度任用職員の公募は国の出先だろうが市役所だろうが90パーセント以上は前任者が継続雇用されます」という現場の声があります。
現職員が有利な理由
- 業務経験がある
- 職場環境を理解している
- 人事評価の実績がある
- 面接官(上司)と面識がある
- 実務スキルが証明されている
これは、「評価基準をもとに選考し、結果として現職の職員が引き続き、次年度も雇用契約に至ったケース」であり、制度上は適法です。

グレーゾーンの実態
「今の市では会計年度任用職員は3年の更新が限度なので、在籍中の人の満期が来たら広く一般公募し、現職の人も応募する。形だけの面接をして前回と同じ人を雇う」という証言があります。
問題となるケース
- 面接前に採用者が決まっている
- 形式的な面接のみ実施
- 外部応募者の評価を恣意的に下げる
- 募集期間を極端に短くする
- 情報を内部者のみに先行開示

出来レースの実例

福岡県みやこ町の汚職事件
2019年11月、福岡県みやこ町の採用試験で、知人の息子が合格するよう便宜を図ったとして、町議があっせん収賄容疑で逮捕され、最終面接を担当した副町長が地方公務員法違反容疑で書類送検されました。
事件の内容
- 町議が知人の息子を合格させるよう依頼
- 菓子折りに200万円を包んで賄賂
- 副町長が採用試験で便宜を図る
- 逮捕・書類送検
このような前例があるため、「逮捕されるリスクを冒してまで、一般職員である面接官が会計年度任用職員の採用で出来レースを仕込むとは考えにくいです」という意見もあります。

出来レースの見分け方

募集段階での兆候
以下のような募集は、出来レースの可能性があります。
注意すべき募集の特徴
- 募集期間が極端に短い
- 数日〜1週間程度
- 週末を挟まない平日のみ
- 募集時期が不自然
- 年度途中の突然の募集
- 応募条件が特殊すぎる
- 特定の資格と経験年数の組み合わせ
- 一般的でない専門スキルの指定
- 募集人数と退職者数が一致
- 現職員の任期満了と同数の募集
- 「欠員補充」の明記
- 面接日程の選択肢がない
- 平日昼間の1日のみ
- 調整不可の設定
採用後に確認できる方法
募集の段階では見分けることは困難ですが、採用者が公表された後、結果的に出来レースであったかどうか見分けることはできないこともありません。
具体的には、会計年度任用職員を募集している担当部署に、採用過程と結果に関する情報公開請求を行うという方法です。
情報公開請求で確認できる内容
- 応募者数
- 採用者の経歴(匿名化)
- 選考基準と評価方法
- 面接官の構成
ただし、採用過程や個人情報については情報公開の対象外の可能性があることに加え、受験先に不審人物としてブラックリスト入りする恐れもありますので、情報公開請求をする場合は自己責任で行ってください。
なぜ「出来レース」に見えるのか

制度的な理由
令和2年の会計年度任用職員制度開始時、「公募によらない再採用は2回までと限定されており、3年目には新規の人たちと同様に公募に応募しなければならず」という制限がありました。
3年ルールの影響
- 現職員も3年目には公募に応募
- 業務を理解している現職員が有利
- 外部から見ると「出来レース」に見える
令和6年6月にこの上限は撤廃されましたが、「任用のあり方がかえって恣意的になるのでは?」という新たな懸念が生まれています。
業務継続性の必要性
自治体には、業務の継続性を保つ必要があります。
現職員を優先する理由
- 業務の引き継ぎコストの削減
- サービスの質の維持
- 市民からの信頼関係の継続
- トレーニング期間の短縮
これらは合理的な判断ですが、外部からは「最初から決まっている」と映ります。
評価の不透明性
人事院の担当者は「公募によらない再採用の可否では、上長と職員とのコミュニケーションが大事になると思う」と話しました。
しかし、この「コミュニケーション」が恣意的な判断につながる可能性があり、「業務の期間ではなく、勤務実績や能力の実証で再任用を判断されるとなると、より上司の恣意的な判断で、解雇されかねない」という不安が広がっています。

外部応募者が不利な理由

情報格差
現職員が持つ情報
- 実際の業務内容の詳細
- 職場の雰囲気と人間関係
- 面接官の人となり
- 求められるスキルの正確な把握
外部応募者の情報
- 募集要項のみ
- 職場見学もできない場合が多い
- 内部の人脈なし
実績の差
現職員には勤務実績と人事評価があり、これが大きなアドバンテージになります。
現職員の強み
- 1年以上の勤務実績
- 人事評価の記録
- 上司からの推薦
- 具体的な業務成果
外部応募者
- 履歴書と職務経歴書のみ
- 面接での印象だけで判断
- 実務能力が未知数
本当に「出来レース」なのか冷静に判断する

合理的な理由での不採用
外部から見ると「出来レース」に見えても、実際には合理的な理由で不採用になっている場合があります。
正当な不採用理由
- スキルや経験が不足
- 面接での印象が良くなかった
- 通勤条件が合わなかった
- 勤務条件の認識相違
- 応募書類の不備
現職員が不採用になるケース
現職員が必ず採用されるわけではありません。
現職員が不採用になる理由
- 人事評価が低い
- 勤務態度に問題があった
- より優秀な外部応募者がいた
- 本人が他の職場を選んだ
応募者ができる対策

応募前の確認
出来レースのリスクを減らすには、以下を確認しましょう。
チェックポイント
- 募集期間の長さ
- 2週間以上あれば比較的公正
- 1週間未満は要注意
- 募集時期
- 前年度12月〜2月が一般的
- 3月下旬は現職員の更新失敗の可能性
- 過去の募集状況
- 毎年同じ時期に募集されているか
- 募集頻度
- 自治体の方針
- ホームページで採用方針を確認
- 公平性への取り組み
応募書類の工夫
外部応募者がハンデを克服するには、優れた応募書類が必要です。
効果的な履歴書・職務経歴書
- 募集職種に関連する具体的な実績
- 数字で示せる成果
- 即戦力であることのアピール
- 自治体の課題への理解
- 長期勤務の意思表示

面接での対応
面接では、現職員以上の印象を残す必要があります。
面接でのポイント
- 自治体の施策を事前に調査
- 具体的な業務提案
- 熱意と誠実さの表現
- 明確な志望理由
- チームワークの重視

不公平な選考への対処法

記録を残す
不審な点があれば、記録を残しましょう。
記録すべき内容
- 募集要項のスクリーンショット
- 応募日時
- 面接の日時と内容
- 面接官の発言
- 結果通知の内容
相談先
明らかに不公平な選考の場合、以下に相談できます。
相談窓口
- 自治体の人事担当課
- 人事委員会
- 総務省
- 労働局
- 弁護士
情報公開請求
前述の通り、情報公開請求も選択肢の一つです。
ただし、リスクを理解した上で慎重に判断してください。
制度改善の動き

更新上限の撤廃
令和6年6月、国の非正規公務員(期間業務職員)について、公募試験をせずに再度の採用ができる回数を原則2回までとする「3年目公募」の制限を撤廃すると各省庁に通知しました。
これにより、優秀な現職員の雇用は安定しますが、外部からの採用機会は減る可能性があります。
透明性の確保
福島みずほ参議院議員は「今回の通知は一歩進んだと思ってはいるが、根本的な矛盾や問題点を見てほしい。会計年度任用制度により公共サービスがすごく傷んでいる」と話しました。
求められる改善
- 選考基準の明確化
- 評価の透明性向上
- 外部応募者への配慮
- 内定者情報の適切な管理
冷静な判断と前向きな対応を

「出来レース」と決めつけない
不採用になったからといって、必ずしも出来レースだったとは限りません。
冷静に考えるべきこと
- 自分のスキルは十分だったか
- 面接対策は万全だったか
- 応募書類は魅力的だったか
- 他に優秀な応募者がいた可能性
- 単純に縁がなかっただけかもしれない
経験を次に活かす
不採用の経験も、次の応募に活かせます。
改善のポイント
- 面接での反省点を洗い出す
- 応募書類をブラッシュアップ
- 自治体研究をより深める
- 専門スキルを磨く
- 他の自治体も検討する
正規職員への道も検討
会計年度任用職員にこだわらず、正規職員を目指すのも選択肢です。
正規職員のメリット
- 雇用が安定
- 給与が高い
- キャリアパスが明確
- 出来レースの心配がない
ただし、競争率は会計年度任用職員よりはるかに高くなります。
よくある質問

Q1. 外部から応募しても採用される可能性はありますか?
A1. あります。特に以下のケースでは外部応募者にもチャンスがあります:①現職員が辞退・他所へ転職、②現職員の評価が低い、③専門性の高い職種で現職員がいない、④新規事業での募集。
Q2. 「90%が継続雇用」は違法ではないのですか?
A2. 違法ではありません。業務経験がある現職員が評価で優位なのは自然なことです。ただし、選考プロセスが公正に行われることが前提です。
Q3. 面接で「出来レース」かどうか見分けられますか?
A3. 完全には判断できませんが、①面接時間が極端に短い、②形式的な質問のみ、③面接官の関心が薄い、④現職員の話題が多い、などは兆候の可能性があります。
Q4. 不採用になったら理由を教えてもらえますか?
A4. 法的な開示義務はありませんが、問い合わせれば一般的な理由を教えてくれる自治体もあります。ただし、詳細な評価内容は開示されない場合が多いです。
Q5. コネがないと絶対に採用されませんか?
A5. そんなことはありません。実力と熱意があれば採用される可能性は十分あります。特に専門職や人手不足の職種では、外部応募者も積極的に採用されています。
Q6. みやこ町のような汚職事件は多いのですか?
A6. 稀です。発覚すれば逮捕されるリスクが高く、一般的な面接官(一般職員)が個人的な便宜を図ることは考えにくいです。ただし、政治家や幹部職員が関与する場合は別です。
Q7. 現職員と一緒に面接を受けることはありますか?
A7. 日時が重なることはありますが、通常は別々に面接します。同じ待合室になることはあり得ます。
まとめ:出来レースの真実

重要ポイントの再確認
- 制度上は「できない」が、実態は「現職員有利」
- 90%以上が継続雇用という現実
- ただし違法ではない
- 業務経験の差が影響
- 完全な出来レースは稀だが、グレーゾーンは存在
- 明らかな汚職は逮捕リスク
- 募集方法の不適切さは問題
- 評価の不透明性
- 外部応募者にもチャンスはある
- 専門職や人手不足の職種
- 現職員が辞退するケース
- 実力で勝負できる
- 不公平な選考には対処法がある
- 記録を残す
- 相談窓口の活用
- 情報公開請求(慎重に)
- 制度改善は進行中
- 更新上限の撤廃
- 透明性の確保
- Q&A集の作成
最後に
多くの自治体は公正な選考を行おうとしていますが、構造的に現職員が有利になりやすい仕組みであることは事実です。
応募者の心構え
- 出来レースと決めつけず、全力で臨む
- 不採用でも経験を次に活かす
- 複数の自治体に応募する
- 専門性を高めて差別化
- 正規職員も視野に入れる
会計年度任用職員の採用は、完全な「出来レース」ではありませんが、現職員が有利な構造であることは理解した上で、それでも自分の可能性を信じて挑戦することが大切です。
不公平な選考に遭遇したら、泣き寝入りせず、適切な窓口に相談しましょう。一人ひとりの声が、制度をより公正なものに変えていく力になります。
