定年退職後も働き続けたいと考えているシニア世代の方にとって、会計年度任用職員は魅力的な選択肢の一つです。
しかし、「65歳以上でも応募できるのか」「70歳を超えても働けるのか」という疑問を持つ方も多いでしょう。
本記事では、会計年度任用職員の年齢制限の実態、65歳以上・70歳以上でも働ける職種、採用のポイント、実際の待遇、注意点まで、豊富なデータと具体例を交えながら詳しく解説します。
会計年度任用職員に年齢制限はあるのか?

まず、会計年度任用職員の年齢制限に関する基本的なルールを理解しましょう。
法律上の年齢制限
結論から申し上げると、会計年度任用職員には法律上の年齢上限はありません。

地方公務員法の規定 地方公務員法には、会計年度任用職員の任用に関して年齢制限を設ける規定はありません。雇用対策法(現:労働施策総合推進法)第9条でも、募集・採用における年齢制限は原則として禁止されています。
厚生労働省の指針 厚生労働省は「雇用における年齢制限禁止について」の中で、年齢制限を設ける場合は合理的な理由が必要としています。公務員についても、この趣旨を尊重することが求められています。
実際の運用:自治体による違い
法律上は年齢制限がなくても、実際の運用は自治体によって大きく異なります。
年齢制限のパターン
- 年齢制限なし:「年齢不問」と明記している自治体
- 定年年齢まで:「65歳まで」「70歳まで」と上限を設定
- 職種による:専門職は年齢不問、一般職は上限あり
- 明記なし:実質的に選考で判断
総務省の調査データ(令和3年度) 全国の自治体の約40%が会計年度任用職員の募集で「年齢不問」としています。一方、約30%が「65歳未満」、約20%が「70歳未満」という上限を設けています。

正規職員の定年延長との関係
2023年4月から、地方公務員の定年が段階的に65歳まで引き上げられています。
定年延長のスケジュール
- 2023年度:61歳
- 2025年度:62歳
- 2027年度:63歳
- 2029年度:64歳
- 2031年度:65歳
会計年度任用職員への影響 正規職員の定年が延長されることで、会計年度任用職員の年齢上限も見直される可能性があります。「定年年齢まで」という規定の自治体では、実質的に上限が引き上げられることになります。
65歳以上で会計年度任用職員として働く実態

実際に65歳以上で働いている方はどのくらいいるのでしょうか。
統計データから見る高齢者雇用の実態
総務省の「会計年度任用職員の任用等の状況」(令和3年度)によると、以下のような年齢分布となっています。
会計年度任用職員の年齢構成
- 20代:約12%
- 30代:約18%
- 40代:約25%
- 50代:約28%
- 60代:約15%
- 70代以上:約2%
この数字から、60代の方が全体の約15%、70代以上も約2%存在することが分かります。実数では、60代が約8万人、70代以上が約1万人と推定されます。
65歳以上が多い職種
高齢者の雇用が多い職種には特徴があります。
専門職・資格職(65歳以上の割合)
- 学校医・学校歯科医:約60%(高齢の医師が多い)
- 図書館司書:約25%
- 相談員(消費生活、教育など):約22%
- 学校用務員:約20%
- 調理員:約18%
事務補助職
- 一般事務補助:約10%
- 窓口業務:約8%
特に多い分野
- 教育関連(学校支援員、図書館など)
- 相談業務(人生経験が活きる)
- 軽作業(用務員、清掃など)
70歳以上でも会計年度任用職員として働けるのか?

70歳を超えても働けるケースは限定的ですが、可能性はあります。
70歳以上の採用が認められやすいケース
高度な専門性がある場合
- 医師、歯科医師(学校医、健診医など)
- 弁護士、司法書士(法律相談員)
- 建築士、技術士(専門的な審査業務)
- 学識経験者(各種委員会の委員)
これらの職種では、70代、80代でも採用されている例があります。
代替要員の確保が困難な場合
- 地方の小規模自治体
- 特殊な業務(方言の記録、伝統技能の継承など)
- 緊急的な人手不足の場合
70歳以上で働く際の注意点
健康状態の証明
多くの自治体で、採用時に健康診断書の提出が求められます。特に70歳以上の場合、より詳細な健康チェックが必要になることがあります。
業務内容の制限
- 重労働は避けられる
- 勤務時間が短めに設定される
- 夜間勤務や休日勤務は基本的にない
更新の判断
年齢が高いほど、毎年の更新時に健康状態や業務遂行能力がより厳密にチェックされる傾向があります。

高年齢者雇用安定法との関係
2021年4月施行の改正高年齢者雇用安定法では、70歳までの就業確保措置が「努力義務」とされました。
70歳までの就業確保措置(努力義務)
- 70歳までの定年引上げ
- 定年制の廃止
- 70歳までの継続雇用制度の導入
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度
- 70歳まで社会貢献事業に従事できる制度
この法律は民間企業が主な対象ですが、自治体も公的機関として、高齢者雇用を推進する方向にあります。
65歳以上・70歳以上で応募する際のポイント

高齢者が会計年度任用職員に応募する際、どのような点に注意すべきでしょうか。
年齢不問の求人を探す
効果的な求人の探し方
- 自治体の公式ホームページを定期的にチェック
- 「年齢不問」「シニア歓迎」という文言がある求人を探す
- ハローワークの窓口で相談(「65歳以上可」で検索可能)
- シルバー人材センターも併せて活用
求人票のチェックポイント
- 応募資格欄に年齢の記載がないか
- 「定年年齢に達するまで」という表現があるか
- 実際の勤務者の年齢層(わかれば確認)

自分の強みを明確にする
高齢者ならではの強みをアピールすることが重要です。
アピールすべき強み
- 豊富な実務経験:具体的な年数と実績
- 専門知識・資格:長年培ってきた専門性
- 人生経験:相談業務などで活きる
- 責任感と勤勉さ:欠勤が少ない、時間厳守
- コミュニケーション能力:幅広い年齢層と良好な関係を築ける
- 地域への貢献意欲:地域を知り尽くしている
健康状態をアピールする
年齢がハンディになる可能性があるため、健康であることを積極的にアピールしましょう。
健康アピールの方法
- 健康診断の結果を提示(問題ない場合)
- 定期的な運動習慣について説明
- 持病の管理ができていることを示す
- 実際の活動(趣味、ボランティアなど)を具体的に話す
柔軟な勤務条件を提示する
有利になる条件の例
- 週3~4日勤務など、柔軟に対応できる
- 短時間勤務(1日4~6時間)でも可能
- 繁忙期の勤務増にも対応できる
- 早朝や午前中の勤務も問題ない
フルタイムにこだわらず、柔軟な働き方を提案することで、採用の可能性が高まります。


面接での対応
面接で聞かれやすい質問と回答例
Q: なぜこの年齢で働きたいのですか? A: 「健康に恵まれており、まだまだ社会に貢献したいと考えています。長年の経験を活かして、地域のために働けることに大きなやりがいを感じています。」
Q: 若い職員と一緒に働けますか? A: 「これまでも幅広い年齢層の方々と働いてきました。若い方から学ぶことも多く、互いに尊重し合える関係を築ける自信があります。」
Q: 体力面は大丈夫ですか? A: 「定期的に健康診断を受けており、健康状態は良好です。週に3回のウォーキングを続けており、体力維持に努めています。無理のない範囲で長く働き続けられると考えています。」
Q: パソコンは使えますか? A: 「基本的な操作(ワード、エクセル、メール)は問題ありません。わからないことがあれば、積極的に学ぶ姿勢を持っています。」
65歳以上の会計年度任用職員の待遇

高齢者が会計年度任用職員として働く場合、待遇はどうなるのでしょうか。
給与・報酬
年齢による給与の差別は原則としてありません。

給与の決定方法
- 職種、職務内容に応じた給与テーブルが適用される
- 経験年数が評価される場合、有利になることも
- 年齢だけを理由に減額されることはない
具体的な給与例(2号の場合)
- 一般事務:月額15万円~20万円
- 専門職(保健師、看護師など):月額18万円~25万円
- 相談員:月額16万円~22万円
1号(パートタイム)の場合
- 時給:1,000円~1,500円程度
- 週20時間勤務の場合:月額8万円~12万円程度

社会保険と年金
雇用保険
- 週20時間以上勤務する場合は加入義務
- 年齢に関わらず加入
健康保険・厚生年金
- 厚生年金:70歳未満は加入義務、70歳以上は加入しない
- 健康保険:70歳以上でも加入義務あり

年金との調整 65歳以上で厚生年金に加入しながら働く場合、「在職老齢年金」の仕組みにより、給与と年金の合計額が一定額を超えると年金が減額される場合があります。
在職老齢年金の基準(2024年度)
- 給与(報酬月額)と年金月額の合計が48万円を超えると、超過分の1/2が年金から減額
- 例:給与20万円、年金月額15万円の場合、合計35万円で減額なし
- 例:給与30万円、年金月額20万円の場合、合計50万円で1万円減額
この点を考慮して、勤務時間を調整する方もいます。

年次有給休暇
年齢に関わらず、労働基準法に基づく年次有給休暇が付与されます。
付与日数(週5日勤務の場合)
- 6ヶ月継続勤務後:10日
- 1年6ヶ月:11日
- 2年6ヶ月:12日
- (以降、勤続年数に応じて増加)

定期健康診断
自治体は、会計年度任用職員に対しても健康診断を実施する義務があります。
高齢者の場合の配慮
- より詳細な検査項目が追加される場合
- 年1回ではなく、半年に1回実施する自治体も
- 異常が見つかった場合のフォローアップ
65歳以上・70歳以上で働く際の注意点とリスク

高齢者が会計年度任用職員として働く場合、特有の注意点があります。
雇止めのリスク
年齢が高いほど、更新されないリスクが高まる可能性があります。
雇止めになりやすい理由
- 健康上の問題が発生した場合
- 業務遂行能力の低下が見られた場合
- より若い応募者が多数いる場合
対策
- 健康管理を徹底する
- 業務の質を維持・向上させる
- 若い職員とのコミュニケーションを大切にする
- 柔軟性を持って業務に取り組む

健康管理の重要性
年齢が上がるほど、健康管理が重要になります。
注意すべき健康リスク
- 転倒・骨折のリスク
- 慢性疾患の管理
- 認知機能の維持
- 視力・聴力の低下
健康維持のポイント
- 定期的な医療機関の受診
- 適度な運動習慣
- バランスの良い食事
- 十分な睡眠
- ストレスの管理
通勤の問題
高齢になると、通勤が負担になることがあります。
通勤の注意点
- 自宅から近い職場を選ぶ(徒歩圏内が理想)
- 公共交通機関の利便性を確認
- 車通勤の場合、駐車場の有無と運転能力の自己評価
- 悪天候時の対応(雪道、豪雨など)
デジタル技術への対応
近年、業務のデジタル化が進んでいます。
求められるスキル
- パソコンの基本操作(ワード、エクセル)
- メールの送受信
- オンライン会議システム(Zoom、Teamsなど)
- タブレット端末の操作
学習方法
- 自治体や公民館の無料講座
- シルバー人材センターの研修
- 家族や友人に教えてもらう
- オンライン学習サービス(YouTubeなど)
苦手意識を持たず、積極的に学ぶ姿勢が重要です。
家族の理解と協力
高齢で働く場合、家族の理解と協力が不可欠です。
家族と話し合うべきこと
- なぜ働きたいのか(経済的理由、生きがい、社会貢献など)
- 健康状態と無理のない働き方
- 家庭での役割分担(家事など)
- 万が一の時のサポート体制
65歳以上・70歳以上におすすめの職種

高齢者に特に適した会計年度任用職員の職種を紹介します。
相談員・アドバイザー
人生経験が活きる職種です。
具体的な職種
- 消費生活相談員:悪質商法などの相談対応
- 教育相談員:保護者や子どもの相談
- 就労相談員:求職者への助言
- 健康相談員:生活習慣病などの相談
必要な資格・経験
- 消費生活相談員:消費生活相談員資格
- その他:関連分野での実務経験、傾聴力
図書館司書
静かな環境で、知的な仕事ができます。
業務内容
- 図書の貸出・返却業務
- 書架の整理
- 利用者への案内
- イベントの企画・運営
必要な資格
- 司書資格(あれば有利、なくても応募可能な場合も)
学校支援員
子どもたちと関わる、やりがいのある仕事です。
具体的な職種
- 学習支援員:授業の補助
- 図書館支援員:学校図書館の運営
- 特別支援教育支援員:特別支援が必要な児童生徒のサポート
- スクールガード:登下校の見守り
適性
- 子どもが好き
- 教育に関心がある
- 体力に自信がある(見守り業務など)
用務員・管理員
体を動かす仕事が好きな方に。
業務内容
- 施設の清掃
- 簡単な修繕
- 鍵の開閉
- 来訪者の案内
適性
- 体力に自信がある
- 細かい作業が得意
- 責任感が強い
公民館・コミュニティセンター職員
地域に密着した仕事です。
業務内容
- 施設の受付業務
- イベントの運営補助
- 地域住民との交流
- 軽作業(清掃、備品管理など)
適性
- 地域のことをよく知っている
- 人と接するのが好き
- フレキシブルに対応できる
よくある質問と回答

Q1: 65歳以上でも会計年度任用職員の2号(フルタイム)として働けますか?
A: はい、可能です。法律上の制限はありません。
ただし、実際には以下の点を考慮する必要があります。
体力面
- フルタイム(週38時間45分)は体力的に負担が大きい
- 自分の健康状態を正直に評価する
自治体の方針
- 高齢者にはパートタイム(1号)を推奨する自治体もある
- 募集要項を確認し、不明点は問い合わせる
実例 実際に、65歳以上で2号として働いている方もいます。特に専門職(保健師、看護師、相談員など)では、フルタイム勤務の高齢者も珍しくありません。
Q2: 年金を受給しながら働くと、年金が減額されるのですか?
A: 場合によっては減額されます。
65歳以上の場合の在職老齢年金
- 給与(報酬月額)と年金月額の合計が48万円を超えると、超過分の1/2が減額
- 48万円以下であれば減額なし
具体例
- 年金月額:15万円
- 給与:月額18万円
- 合計:33万円→減額なし
- 年金月額:20万円
- 給与:月額30万円
- 合計:50万円→2万円超過の1/2=1万円が減額
70歳以上の場合 厚生年金には加入しないため、給与の額に関わらず年金は全額支給されます(健康保険には加入)。
Q3: 70歳を超えていますが、応募できる求人はありますか?
A: 限定的ですが、あります。
探し方
- 「年齢不問」と明記されている求人
- 専門性が高い職種(医師、弁護士、技術士など)
- 小規模自治体(人手不足の傾向)
- シルバー人材センターの紹介
現実的な選択肢 70歳を超えると、会計年度任用職員よりもシルバー人材センターを通じた仕事の方が見つかりやすい場合があります。両方を並行して探すことをおすすめします。
Q4: 定年退職後すぐに同じ自治体の会計年度任用職員になれますか?
A: 自治体によって異なります。
認められるケース
- 明確に制度として認めている自治体(再任用の代わりとして)
- 専門性が高く、後任が見つからない場合
- 部署が変わる場合
認められないケース
- 「クーリング期間」が必要な自治体(6ヶ月~1年の空白期間)
- 「天下り」批判を避けるため、管理職経験者は制限
- 原則として認めない方針の自治体
退職前に人事部門に確認することをおすすめします。
Q5: 健康に不安があるのですが、働けるでしょうか?
A: 病気の種類と程度によります。
重要なポイント
- 業務に支障がなければ問題ない
- 定期的に通院・服薬し、病気が管理されていることが重要
- 採用時に健康診断書の提出が必要
伝えるべきこと
- 持病があること(隠さない)
- 現在の健康状態(管理されている、安定しているなど)
- 業務に支障がないこと
- 緊急時の対応(かかりつけ医の情報など)
配慮してもらえること
- 勤務時間の調整
- 通院のための休暇
- 体力的に負担の少ない業務への配置
正直に伝えた上で、できる範囲で働くことが大切です。
Q6: 65歳以上で採用されるコツはありますか?
A: 以下のポイントを意識してください。
1. 年齢を強みに変える
- 豊富な経験と知識をアピール
- 若い職員への良い影響(メンター的役割)
- 地域への深い理解
2. 健康であることを示す
- 健康診断の結果
- 日常的な運動習慣
- 活動的な生活
3. 柔軟性を示す
- 勤務条件への柔軟な対応
- 新しいことを学ぶ意欲
- 若い世代との協働の意思
4. 明確な動機を持つ
- なぜ働きたいのか
- どう貢献できるのか
- どのくらいの期間働けるのか
5. デジタルスキルを習得
- 最低限のパソコン操作
- メールの使用
- 学ぶ姿勢
これらを面接でしっかり伝えることで、採用の可能性が高まります。

まとめ:年齢は障壁ではない、経験と意欲が大切

65歳以上、さらには70歳以上でも、会計年度任用職員として働くことは十分に可能です。
重要ポイントの再確認
法律上、会計年度任用職員に年齢上限はありません。実際に60代が全体の約15%、70代以上も約2%を占めており、合計約9万人のシニア世代が活躍しています。
自治体によって運用は異なりますが、「年齢不問」とする自治体が約40%あり、特に専門職や相談業務では高齢者の採用が積極的に行われています。
給与や社会保険は年齢による差別なく適用されますが、70歳以上は厚生年金に加入しないこと、在職老齢年金で減額される可能性があることに注意が必要です。
健康管理、柔軟性、学ぶ姿勢が、高齢者が長く働き続けるための鍵となります。
最後に
会計年度任用職員として働くことを検討しているシニア世代の方は、以下を実行してください。
- 自分の住む自治体の会計年度任用職員の募集情報を確認する
- 「年齢不問」の求人を探す
- 自分の経験やスキルを整理し、アピールポイントを明確にする
- 健康診断を受け、健康状態を確認する
- パソコンなど必要なスキルを習得・向上させる
- 家族と話し合い、理解と協力を得る
- シルバー人材センターにも登録して、選択肢を広げる
年齢を重ねることは、豊富な経験と深い知識を持つことでもあります。その強みを活かして、地域社会に貢献しながら、充実した人生を送ってください。会計年度任用職員という働き方は、シニア世代にとって、社会とつながり続ける素晴らしい選択肢の一つです。
