地方公務員を目指している方、転職を考えている方にとって、最も気になるのが「実際の年収」ではないでしょうか。
「安定しているけど給料は低い」というイメージを持つ方も多い一方、「意外と高収入」という声も聞かれます。
本記事では、総務省の公式データに基づき、地方公務員の年収を年齢別、職種別、自治体規模別に詳しく解説します。
さらに、手当や福利厚生、生涯賃金、民間企業との比較まで、地方公務員の給与の全体像を明らかにします。
地方公務員の平均年収はいくら?

まず、地方公務員全体の平均年収から見ていきましょう。
総務省データに基づく平均年収
総務省「地方公務員給与実態調査」(令和4年度)によると、地方公務員の平均年収は以下の通りです。
一般行政職の平均
- 平均年齢:43.1歳
- 平均給料月額:324,680円
- 平均諸手当月額:61,953円
- 月収合計:386,633円
- 期末・勤勉手当(年間):1,573,825円
- 平均年収:約621万円
この数字は、全国の都道府県、政令指定都市、市区町村の一般行政職員を対象とした平均値です。
年収の内訳を理解する
地方公務員の年収は、以下の要素で構成されています。
基本給与
- 給料月額:職務の級と号給により決定
- 地域手当:物価の高い地域に支給(東京都特別区は20%)
- 扶養手当:扶養家族がいる場合に支給
諸手当
- 通勤手当:通勤にかかる実費
- 住居手当:賃貸住宅に居住する場合
- 時間外勤務手当:残業代
- 特殊勤務手当:業務内容により支給
期末・勤勉手当(ボーナス)
- 年2回(6月、12月)
- 給料月額の約4.5ヶ月分(自治体により異なる)
これらを合計したものが年収となります。
民間企業との比較
国税庁「民間給与実態統計調査」(令和4年)によると、民間企業の平均年収は約458万円です。
比較すると
- 地方公務員:約621万円
- 民間企業:約458万円
- 差額:約163万円(地方公務員が高い)
ただし、この比較には注意が必要です。
民間企業には小規模企業やパート・アルバイトも含まれる一方、地方公務員は正規職員のみのデータです。
企業規模や雇用形態を揃えて比較すると、差は縮まります。
従業員1000人以上の大企業との比較
- 大企業平均:約520万円~550万円
- 地方公務員:約621万円
- この場合でも、地方公務員がやや高い傾向
年齢別の年収推移

地方公務員の年収は、年齢(勤続年数)とともに着実に上昇します。
20代の年収
22歳(新卒採用時)
- 給料月額:約180,000円
- 諸手当:約20,000円
- 月収:約200,000円
- 年収:約330万円~360万円
28歳(勤続6年)
- 給料月額:約230,000円
- 諸手当:約35,000円
- 月収:約265,000円
- 年収:約420万円~450万円
20代前半は民間企業と比較しても決して高くありませんが、確実に毎年昇給していきます。
30代の年収
30歳(勤続8年)
- 給料月額:約250,000円
- 諸手当:約40,000円
- 月収:約290,000円
- 年収:約470万円~500万円
35歳(勤続13年)
- 給料月額:約290,000円
- 諸手当:約50,000円
- 月収:約340,000円
- 年収:約550万円~580万円
39歳(勤続17年)
- 給料月額:約315,000円
- 諸手当:約55,000円
- 月収:約370,000円
- 年収:約600万円~630万円
30代後半になると、年収600万円を超え始め、生活に余裕が出てきます。
40代の年収
40歳(勤続18年)
- 給料月額:約320,000円
- 諸手当:約60,000円
- 月収:約380,000円
- 年収:約620万円~650万円
45歳(勤続23年、係長級)
- 給料月額:約360,000円
- 諸手当:約70,000円
- 月収:約430,000円
- 年収:約700万円~740万円
49歳(勤続27年、課長補佐級)
- 給料月額:約395,000円
- 諸手当:約75,000円
- 月収:約470,000円
- 年収:約770万円~810万円
40代は昇進のタイミングでもあり、役職に就くと年収が大きく上昇します。
50代の年収
50歳(勤続28年、課長級)
- 給料月額:約420,000円
- 諸手当:約80,000円
- 月収:約500,000円
- 年収:約820万円~860万円
55歳(勤続33年、部長級)
- 給料月額:約470,000円
- 諸手当:約90,000円
- 月収:約560,000円
- 年収:約920万円~960万円
59歳(勤続37年、定年直前)
- 給料月額:約480,000円
- 諸手当:約95,000円
- 月収:約575,000円
- 年収:約940万円~980万円
50代、特に部長級以上に昇進すると、年収900万円を超えるケースも珍しくありません。
定年後の再任用
2023年から段階的に定年が65歳まで延長されていますが、現在の制度では60歳定年が基本です。
再任用職員の年収
- 月収:約25万円~30万円(フルタイム勤務の場合)
- 年収:約400万円~450万円
- 定年前の約半分程度
再任用は「新たな採用」という扱いのため、給与は大幅に減少します。


職種別の年収比較

地方公務員には多様な職種があり、それぞれ給与体系が異なります。
一般行政職
最も人数が多い職種で、前述の平均年収(約621万円)はこの職種のデータです。
業務内容
- 窓口業務、企画立案、予算編成、広報など
- 異動により様々な部署を経験
警察官
都道府県に所属する地方公務員です。
平均年収
- 全国平均:約690万円~720万円
- 警視庁(東京都):約750万円~780万円
特徴
- 一般行政職より高め
- 特殊勤務手当、時間外勤務手当が充実
- 階級により大きく変動(巡査→警部→警視)
消防士
市町村または一部事務組合に所属します。
平均年収
- 全国平均:約650万円~680万円
- 政令指定都市:約700万円~730万円
特徴
- 一般行政職よりやや高め
- 特殊勤務手当(火災出動手当など)
- 24時間勤務体制による手当
教職員(小中学校教員)
都道府県または政令指定都市の職員です。
平均年収
- 全国平均:約660万円~690万円
- 教職調整額(給料月額の4%)が加算される
特徴
- 時間外勤務手当はない(教職調整額で代替)
- 夏季休業中も給与は変わらない
- 校長、教頭になると年収800万円超
医療職(看護師、保健師)
病院、保健所などに勤務します。
看護師の平均年収
- 都道府県立病院:約550万円~600万円
- 市立病院:約520万円~570万円
保健師の平均年収
- 約580万円~620万円(一般行政職と同水準)
技術職(土木、建築、電気など)
専門的な技術を要する職種です。
平均年収
- 約610万円~650万円(一般行政職とほぼ同水準)
特徴
- 採用人数が少ない
- 民間企業との人材獲得競争があり、採用が有利な場合も
保育士(公立保育園)
市町村に所属する保育士です。
平均年収
- 約480万円~530万円
特徴
- 一般行政職より低め
- ただし、民間保育園(平均約380万円)より高い
- 安定性と福利厚生が魅力
自治体規模別の年収比較

自治体の規模によっても年収は異なります。
都道府県職員
平均年収
- 約640万円~680万円
特徴
- 広域的な業務を担当
- 専門性の高い部署が多い
- 昇進のポストが比較的多い
都道府県別のトップ3(平均年収)
- 東京都:約720万円
- 神奈川県:約680万円
- 大阪府:約670万円
政令指定都市職員
平均年収
- 約630万円~670万円
特徴
- 都道府県並みの権限を持つ
- 組織が大きく、キャリアパスが豊富
政令市別のトップ3
- 横浜市:約690万円
- 川崎市:約680万円
- 名古屋市:約670万円
一般市職員
平均年収
- 人口10万人以上の市:約600万円~630万円
- 人口5万人~10万人の市:約580万円~610万円
- 人口5万人未満の市:約550万円~580万円
町村職員
平均年収
- 約520万円~560万円
特徴
- 最も年収が低い傾向
- ただし、生活費も低い地域が多い
- 地域に密着した業務
地域手当の影響
物価の高い地域には「地域手当」が支給され、これが年収に大きく影響します。
地域手当の支給割合(給料月額に対して)
- 東京都特別区:20%
- 大阪市、横浜市など:16%
- 名古屋市:15%
- 札幌市、福岡市など:10%
- 地方の小都市:3%~6%
- 支給なしの地域も多数
例えば、給料月額30万円の場合、東京都特別区では6万円の地域手当が加算され、年間72万円の差が生まれます。
手当と福利厚生の実態

基本給以外の手当や福利厚生も、実質的な年収を左右します。
主な手当の詳細
扶養手当
- 配偶者:月額6,500円
- 子ども1人目:月額10,000円
- 子ども2人目以降:月額5,000円/人
- 年間:約15万円~30万円
住居手当
- 賃貸住宅の場合:月額最大28,000円
- 持ち家(住宅ローン有)の場合:廃止されている自治体が多い
- 年間:最大約34万円
通勤手当
- 公共交通機関:実費(上限月額55,000円)
- 自動車通勤:距離に応じて支給(2km以上)
- 年間:約10万円~60万円
時間外勤務手当(残業代)
- 通常:給料月額の1.25倍
- 深夜(22時~5時):1.5倍
- 休日:1.35倍
- 部署により大きく異なる(企画部門、税務部門は多め)
期末・勤勉手当(ボーナス)
- 年2回(6月、12月)
- 給料月額の約4.5ヶ月分(令和5年度)
- 年間:約140万円~200万円(年齢により変動)

福利厚生の価値
金銭的な支給だけでなく、福利厚生の充実度も重要です。
共済組合の福利厚生
- 医療費の給付
- 各種見舞金(出産、結婚、災害など)
- 保養施設の利用補助
- 融資制度(住宅、教育、医療など)
- 年間相当額:約10万円~20万円
休暇制度
- 年次有給休暇:年20日(繰越含め最大40日)
- 夏季休暇:3日~5日
- 結婚休暇、忌引休暇、病気休暇など
- ほぼ100%取得可能
退職手当(退職金)
- 大卒、38年勤務の場合:約2,200万円~2,500万円
- 高卒、40年勤務の場合:約2,000万円~2,300万円
- 民間企業(大卒、38年勤務):約1,900万円
- 地方公務員の方が高い傾向
生涯賃金の試算

22歳で採用され、60歳で定年を迎える場合の生涯賃金を試算してみましょう。
一般行政職のモデルケース
前提条件
- 大学卒業後、22歳で採用
- 一般行政職(都道府県または政令市)
- 順調に昇進(40代で係長、50代で課長)
- 配偶者と子ども2人の扶養家族あり
年代別の累計
- 20代(8年間):約3,200万円
- 30代(10年間):約5,800万円
- 40代(10年間):約7,300万円
- 50代(10年間):約8,700万円
- 合計(38年間):約2億5,000万円
退職金を含めると
- 退職金:約2,300万円
- 生涯賃金総額:約2億7,300万円
民間企業との比較
厚生労働省の調査によると、大卒男性の生涯賃金(退職金含む)は以下の通りです。
企業規模別の生涯賃金
- 大企業(1000人以上):約2億6,000万円~2億8,000万円
- 中企業(100~999人):約2億2,000万円~2億4,000万円
- 小企業(10~99人):約1億8,000万円~2億円
地方公務員の生涯賃金は、大企業とほぼ同水準、中小企業より高いことが分かります。
生涯賃金のメリット
地方公務員の生涯賃金の特徴は、「安定性」です。
安定性の要素
- 毎年確実に昇給する
- ボーナスが必ず支給される(減額はあっても不支給はない)
- リストラがない
- 倒産のリスクがない
- 定年まで働ける
この安定性は、住宅ローンやライフプラン設計において大きなアドバンテージとなります。
地方公務員の年収に関するよくある質問

Q1: 地方公務員の初任給は安いと聞きますが、本当ですか?
A: はい、民間大企業と比較すると、初任給は低めです。
地方公務員の初任給(令和5年度)
- 大卒:約180,000円~185,000円
- 短大卒:約160,000円~165,000円
- 高卒:約150,000円~155,000円
民間大企業の初任給
- 大卒:約220,000円~250,000円
初任給は民間大企業より3万円~6万円程度低いですが、以下の点で差が縮まります。
- 地方公務員は年功序列で確実に昇給
- 民間企業は成果主義で昇給に個人差
- 30代半ばで逆転するケースが多い
長期的に見れば、決して不利ではありません。
Q2: 残業代はきちんと支給されますか?
A: 基本的には支給されますが、部署や時期により異なります。
支給される部署
- 税務部門:確定申告時期は残業が多い
- 福祉部門:緊急対応が発生する
- 企画部門:予算編成時期
- これらの部署では月20~40時間程度の残業が発生
残業が少ない部署
- 定型業務中心の部署
- 月5~10時間程度
サービス残業の有無 近年、働き方改革により残業時間の管理は厳格化されています。サービス残業は減少傾向ですが、完全にゼロではないのが実情です。
残業代の計算例(給料月額30万円の場合)
- 時間単価:30万円÷160時間=1,875円
- 1.25倍:2,344円/時間
- 月20時間残業:約47,000円
- 年間:約56万円
Q3: ボーナスは景気に左右されますか?
A: 民間企業ほどではありませんが、影響を受けます。
ボーナスの決定方法 人事院勧告(国家公務員)や人事委員会勧告(地方公務員)に基づき、民間企業の支給状況を参考に決定されます。
近年の支給月数の推移
- 平成30年度:4.45ヶ月分
- 令和元年度:4.50ヶ月分
- 令和2年度:4.50ヶ月分(コロナ禍でも維持)
- 令和3年度:4.45ヶ月分(若干減)
- 令和4年度:4.40ヶ月分
- 令和5年度:4.50ヶ月分
特徴
- 大幅に減ることはない(最低でも4ヶ月分程度は保証)
- ゼロになることはない
- 民間企業の平均を反映
Q4: 共働きの場合、世帯年収はどのくらいになりますか?
A: 非常に高い世帯年収になります。
夫婦ともに地方公務員の場合
- 夫(35歳、一般行政職):約580万円
- 妻(33歳、保育士):約500万円
- 世帯年収:約1,080万円
- 夫(45歳、課長補佐):約780万円
- 妻(43歳、一般行政職):約650万円
- 世帯年収:約1,430万円
共働きが当たり前の現代では、地方公務員同士の結婚は経済的に非常に恵まれた選択と言えます。
Q5: 年収が高い自治体に転職することは可能ですか?
A: 制度上は可能ですが、実際にはハードルが高いです。
転職の方法
- 経験者採用試験:一部の自治体で実施
- 退職して新規採用試験:年齢制限あり
経験者採用の実態
- 実施自治体:政令市、中核市の一部
- 対象年齢:通常35歳~45歳程度
- 競争率:3倍~10倍程度
- 民間企業経験者も対象のため、地方公務員からの転職はやや不利
給与の引継ぎ
- 前職の経験年数が一部考慮される場合がある
- ただし、全てが引き継がれるわけではない
- 実質的に年収が下がる可能性もある
現実的には、最初から年収の高い自治体を目指して就職することが重要です。
Q6: 副業はできますか?副業で年収を増やせますか?
A: 原則として禁止ですが、一部認められるケースがあります。
地方公務員法第38条 営利企業への従事制限があり、任命権者の許可なく副業することはできません。
近年の動向 2017年以降、一部の自治体で副業が解禁されています。
認められる副業の例
- 地域貢献活動(NPO、地域活性化など)
- 専門性を活かした活動(講演、執筆など)
- 家業の手伝い
- 小規模な農業
認められない副業
- 営利目的の事業経営
- 本業に支障をきたす活動
- 公務員の信用を損なう活動
実際に副業で収入を得ている地方公務員は、まだ少数です。
まとめ:地方公務員の年収は安定性と将来性が魅力

地方公務員の年収について、データに基づいて詳しく解説してきました。
重要ポイントの再確認
地方公務員の平均年収は約621万円で、民間企業平均(約458万円)より高い水準にあります。ただし、大企業と比較するとほぼ同水準です。
年齢とともに着実に昇給し、40代で600万円超、50代で800万円~900万円に達します。初任給は民間大企業より低いですが、長期的には遜色ない水準です。
職種別では警察官、消防士、教員が一般行政職より高く、自治体規模では都道府県、政令市が高い傾向にあります。地域手当の有無も大きく影響します。
生涯賃金は約2億7,000万円(退職金含む)で、大企業とほぼ同水準、中小企業より高い水準です。最大の魅力は「安定性」にあり、確実に昇給し、リストラのリスクがありません。
最後に
地方公務員を目指している方、転職を考えている方は、以下を実行してください。
- 志望する自治体の給与体系を確認する(ホームページで公開されている)
- 年齢、職種、家族構成を考慮して、将来の年収をシミュレーションする
- 採用試験の情報を収集し、受験計画を立てる
- 民間企業と比較し、自分にとって何が重要か(年収、安定性、やりがいなど)を明確にする
- 面接では、年収だけでなく公務員としての志望動機をしっかり準備する
地方公務員の年収は、決して高額ではありませんが、安定性と将来性において非常に優れています。長期的なライフプランを考える上で、魅力的な選択肢の一つと言えるでしょう。自分の価値観とキャリアプランに照らして、最適な選択をしてください。

