「親が亡くなったが、相続の手続きをどこから始めればいいか分からない」「遺産分割でもめそうで心配」「相続税がかかるかどうか確認したい」「費用をかけずに相続のことを相談できる場所はない?」
身近な方が亡くなった直後は、悲しみの中で無数の手続きに追われます。戸籍収集・遺産分割・相続登記・相続税申告——どれも初めてのことばかりで「どこに何を相談すればいいのか」から迷う方がほとんどです。
実は、市役所(市区町村役場)では相続に関する相談をいくつかの窓口で受け付けており、費用がかからない(無料)相談サービスも充実しています。 ただし、市役所でできることとできないことを正しく理解しておかないと、「相談に行ったのに解決しなかった」という事態になりかねません。
本記事では、市役所の相続相談窓口で何ができるか・何ができないか・どの専門家に繋いでもらえるか・実際の相談の流れを、具体的かつ分かりやすく解説します。
市役所で相続に関して相談できること・できないこと

市役所の「役割」を正しく理解する
市役所は法律の専門機関ではないため、相続に関するすべての問題を解決できるわけではありません。市役所が対応できる相続関連の業務は、大きく「行政手続きの案内」と「相談窓口の案内・専門家への橋渡し」に分かれます。
| できること | できないこと |
|---|---|
| 相続に必要な戸籍・住民票などの書類発行 | 遺産分割協議書の作成・法的アドバイス |
| 相続手続きの流れの一般的な説明・案内 | 相続税の計算・申告 |
| 法律相談(弁護士による無料相談)への案内・予約 | 相続登記の代行(法務局が窓口) |
| 司法書士・税理士への紹介・無料相談の案内 | 相続人どうしの仲裁・調停 |
| 各種証明書(固定資産評価証明書など)の発行 | 相続放棄の手続き(家庭裁判所が窓口) |
| 未支給年金・国民健康保険の死亡関連手続き | 遺言書の作成・保管(法務局が担当) |
市役所で取得できる相続関連書類
相続手続きを進めるうえで、市役所で取得できる重要書類は以下のとおりです。
① 戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍 相続人を確定するために必要な書類です。被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍をすべて収集する必要があります。本籍地の市区町村が発行します。
ポイント: 相続に必要な戸籍は「被相続人の出生から死亡まで」の連続したものが必要で、本籍の移動があれば複数の自治体から取り寄せることになります。「法定相続情報証明制度」(法務局が発行)を活用すると、戸籍の束を一枚の証明書に集約できるため、複数の金融機関・法務局への提出が楽になります。
② 住民票・住民票の除票 被相続人・相続人全員の住民票が必要な場合があります。被相続人の「住民票の除票」(死亡により消除された住民票)は、相続登記・金融機関手続きで求められます。

③ 固定資産評価証明書 不動産を相続する場合、相続登記や相続税申告のために必要です。不動産が所在する市区町村の税務課・資産税課で発行してもらいます。
④ 戸籍の附票 相続登記に必要な被相続人の住所変遷を証明する書類。住民票の除票で証明できない場合に使用します。
市役所の主な相続相談窓口

① 市民相談室・総合相談窓口
「相続のことを誰かに相談したいが、どこに行けばいいか分からない」という場合の最初の一歩として最適なのが、市役所の市民相談室・総合相談窓口です。
担当者が相談内容を聞いたうえで、適切な窓口や専門家(弁護士・司法書士・税理士など)への案内をしてくれます。「何が分からないかも分からない」という段階でも受け付けてもらえます。
② 無料法律相談(弁護士による相談)
多くの市区町村では、弁護士が担当する無料法律相談を月1〜4回程度実施しています。相続問題は法律相談の最頻出テーマの一つです。
相続分野で弁護士に相談できる内容:
- 遺産分割の方法・法定相続分の確認
- 遺留分(最低限受け取れる相続分)の請求
- 相続人どうしでトラブルが起きている場合の対処法
- 遺言書の有効性・内容への疑問
- 相続放棄の判断・手続きの方向性
- 寄与分・特別受益をめぐる争い
注意点: 市役所の無料法律相談は1回20〜30分程度と時間が限られており、「方向性のアドバイス」が中心です。遺産分割協議書の作成・調停・訴訟などの本格対応は、弁護士事務所への正式な依頼が必要です。

③ 司法書士による無料相談
相続登記(不動産の名義変更)に関しては、司法書士への相談が最も適切です。市区町村や法務局が主催する司法書士の無料相談会を活用しましょう。
2024年4月から相続登記が義務化! これまで任意だった相続登記(不動産の名義変更)が、2024年4月1日から義務化されました。相続により不動産を取得した場合、相続を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。正当な理由なく期限を過ぎると10万円以下の過料(罰則)が科される可能性があります。
法務省の調査によると、相続登記未了の不動産(所有者不明土地)は全国で約410万ヘクタールと推計されており(2020年時点)、これは九州の面積を超える規模です。所有者不明土地問題の解決に向けた義務化です。
司法書士に相談できる相続関連の内容:
- 相続登記(不動産名義変更)の手続きと費用
- 相続登記に必要な書類の収集・作成
- 相続放棄の申述手続き(家庭裁判所への申立て書類作成)
- 遺産分割協議書の作成(争いのないケース)
- 法定相続情報証明制度の申請
④ 税理士による相談(相続税関連)
相続税の申告・節税対策については税理士への相談が必要です。市区町村の無料相談会や、税理士会が定期的に実施する「無料税務相談」を活用できます。
相続税の申告が必要かどうかの基準(2024年度):
相続税には「基礎控除」があり、遺産総額が基礎控除額以下であれば申告・納付は不要です。
基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
例:法定相続人が配偶者+子2人(合計3人)の場合 → 基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 3)= 4,800万円
遺産総額(プラスの財産からマイナスの財産・葬儀費用などを差し引いた正味の遺産)が4,800万円以下であれば、相続税の申告は不要です。
相続税の申告期限は「相続開始を知った日の翌日から10か月以内」です。 延納・物納の制度もありますが、申告期限を過ぎると延滞税・加算税のペナルティが発生します。「自分に申告が必要かどうか分からない」という場合は、早めに税理士か税務署に相談しましょう。
市役所の相続相談窓口の使い方:状況別ガイド

【ケース1】親が亡くなり、何から始めればいいか分からない
まず市役所でやること:
- 死亡届の提出(死亡診断書を受け取ってから7日以内)
- 火葬許可証の取得(死亡届と同時に申請)
- 健康保険・年金の資格喪失手続き(死亡後14日以内)
- 国民健康保険・後期高齢者医療保険の葬祭費・埋葬料の申請
その後、相続手続きに必要な戸籍謄本・住民票の除票・固定資産評価証明書などを市役所で取得します。
相続手続きの大まかなスケジュール:
| 期限 | 手続き内容 |
|---|---|
| 7日以内 | 死亡届の提出・火葬許可証の取得 |
| 14日以内 | 健康保険・年金の喪失届(市役所・年金事務所) |
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認の申述(家庭裁判所) |
| 4か月以内 | 被相続人の所得税の準確定申告(税務署) |
| 10か月以内 | 相続税の申告・納付(税務署) |
| 3年以内 | 相続登記(法務局)※2024年4月〜義務化 |
【ケース2】相続人どうしで意見が分かれている
遺産の分け方をめぐって相続人間で意見が合わない場合、市役所の無料法律相談(弁護士)に相談するのが最初のステップです。
弁護士からは、以下のような選択肢についてアドバイスを受けられます。
- 任意の遺産分割協議: 相続人全員で話し合い、合意した内容を「遺産分割協議書」に記載する(司法書士・弁護士が作成を支援)
- 家庭裁判所の調停(遺産分割調停): 話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所の調停委員が仲介する
- 審判: 調停でも解決できない場合、家庭裁判所が法定相続分に基づいて判断する
ポイント: 感情的な対立が激しいケース・遺産の規模が大きいケースは、早期に弁護士へ正式に依頼することをおすすめします。弁護士に依頼せず自分たちで解決しようとして、争いが長期化するケースは非常に多いです。
【ケース3】遺言書が見つかった
自筆証書遺言(手書きの遺言書)が見つかった場合: 勝手に開封してはいけません。家庭裁判所での「検認」手続きが必要です(法務局の遺言書保管制度を利用した場合は検認不要)。
公正証書遺言が存在する場合: 公証役場(公証人が作成した正式な遺言書)は検認不要で、そのまま相続手続きに使用できます。
遺言書の内容に疑問・不満がある場合は、弁護士に相談して「遺留分(最低限受け取れる権利)」の請求が可能かどうかを確認しましょう。
【ケース4】相続財産が不明・負債が多い可能性がある
遺産の全体像が把握できない・借金が多い可能性がある場合は、相続放棄(相続を一切しない選択)または限定承認(プラスの財産の範囲でのみ借金を引き受ける)を検討する必要があります。
重要:相続放棄・限定承認の期限は「相続の開始を知った日から3か月以内」です。この期限を過ぎると、自動的に「単純承認(すべての財産と借金を相続)」したとみなされます。
相続放棄を検討している場合は、期限が迫る前に市役所の法律相談または司法書士・弁護士に早急に相談してください。
市役所以外の相続相談窓口との使い分け

主要な無料・低額相続相談窓口
市役所の相談窓口に加え、以下の機関も相続相談の選択肢として押さえておきましょう。
| 相談先 | 費用 | 強みとなる相続分野 |
|---|---|---|
| 市役所の法律相談(弁護士) | 無料 | 遺産分割トラブル・遺留分・総合的な法律問題 |
| 法務局(登記相談) | 無料 | 相続登記・法定相続情報証明制度の申請 |
| 法テラス | 無料(収入基準あり) | 紛争化した相続・費用が払えない方 |
| 税務署(相続税の相談) | 無料 | 相続税の申告要否・計算方法の確認 |
| 弁護士会の法律相談センター | 30分5,500円 | 紛争・訴訟・調停が必要なケース |
| 司法書士会の相談会 | 無料〜低額 | 相続登記・相続放棄の書類作成 |
| 税理士会の税務相談会 | 無料 | 相続税の試算・節税・申告 |
| 銀行・信託銀行の相続相談 | 無料 | 金融資産の名義変更・遺言信託 |
専門家選びのポイント:誰に何を頼むか
相続の問題は複合的であることが多いため、専門家の選び方が重要です。
弁護士に頼む場面:
- 相続人間で争いが起きている・起きそう
- 遺留分の請求・交渉が必要
- 遺言書の有効性に疑問がある
- 調停・審判・訴訟になる可能性がある
司法書士に頼む場面:
- 不動産の相続登記(名義変更)をしたい
- 争いのない状況での遺産分割協議書作成
- 相続放棄の申述書類を作りたい
- 法定相続情報証明書の申請をしたい
税理士に頼む場面:
- 相続税の申告が必要かどうか判断したい
- 相続税を節税したい(小規模宅地等の特例など)
- 申告書の作成・提出を依頼したい
行政書士に頼む場面:
- 争いのない相続での各種書類作成全般
- 相続財産の調査・一覧表(財産目録)の作成
- 預貯金の解約・名義変更手続きのサポート
相談前に準備しておくと便利なもの

市役所や専門家に相談する前に、以下の情報・書類を整理しておくと相談がスムーズに進みます。
【基本情報の整理】
- 被相続人(亡くなった方)の氏名・生年月日・死亡日・本籍地・最後の住所
- 法定相続人の一覧(配偶者・子・孫・親・兄弟姉妹など)
- 相続関係が複雑な場合(前婚の子・養子・胎児など)のメモ
【財産・負債の把握】
- プラスの財産:不動産(固定資産税通知書)・預貯金(通帳)・株式・生命保険・貸付金
- マイナスの財産:借金・ローン・未払い税金・保証債務
【書類の有無の確認】
- 遺言書の存在(自筆・公正証書・秘密証書)
- 生命保険証書・契約内容の確認
よくある質問(FAQ)

Q. 遠方に住んでいて、亡くなった方の市役所に行けない場合は?
A. 戸籍謄本・住民票の除票・固定資産評価証明書などは、郵送で申請・取得が可能です。必要書類(申請書・本人確認書類のコピー・返信用封筒・手数料相当の定額小為替)を送付すれば、郵送で返送してもらえます。また、マイナポータルや戸籍謄本のオンライン申請に対応している自治体も増えています。

Q. 相続登記の義務化(2024年)は、過去の相続にも適用される?
A. 適用されます。2024年4月1日以前に発生した相続についても、2027年3月31日まで(3年間)の猶予期間内に相続登記を完了させることが義務づけられています。長年放置している不動産がある場合は、早めに司法書士または法務局に相談してください。
Q. 相続した不動産に住む予定がない・売りたい場合はどうすれば?
A. 不動産を売却するためにも、まず相続登記(自分の名義に変更)が必要です。名義変更なしに売却はできません。売却後の譲渡所得税(売却益への課税)については、取得からの期間・相続税の納付状況によって税額が変わるため、税理士への相談もあわせて行いましょう。
Q. 相続の相談は何回でも無料でできる?
A. 市役所の無料法律相談は、多くの自治体で同一案件につき1〜2回程度が上限となっています。一度の相談で解決しなかった場合や、本格的な手続き支援が必要な場合は、弁護士・司法書士・税理士への正式な依頼(有料)に移行することが必要です。費用が心配な場合は法テラスの費用立替制度(収入基準あり)を活用できます。
まとめ:市役所の相続相談窓口を「最初の一歩」として活用しよう

本記事の重要ポイントを整理します。
- 市役所では戸籍・住民票・固定資産評価証明書などの書類発行と、無料法律相談・専門家への案内が主な相続サポート
- 「何から始めればいいか分からない」段階では、まず市民相談室・総合窓口への相談が最善の第一歩
- 2024年4月から相続登記が義務化。相続を知った日から3年以内に登記しなければ過料のリスクあり
- 相続税の申告期限は10か月以内、相続放棄・限定承認の期限は3か月以内と期限管理が極めて重要
- 相続人間のトラブル→弁護士、登記→司法書士、税金→税理士と専門家を使い分けることが解決の近道
- 費用が心配な場合は法テラス・各士業会の無料相談会を積極的に活用する
相続は「一生に何度もある手続きではない」からこそ、慣れない作業に戸惑うのは当然です。市役所の相談窓口は、「何も分からない」状態でも受け入れてくれる最も身近な相談先です。一人で悩まず、まずは窓口の扉を開いてみましょう。
