「市役所から差し押さえの通知が届いた。どうすればいい?」「給与や預貯金が差し押さえられる前に何かできる?」「差し押さえを回避する方法はある?」「すでに差し押さえされてしまった。解除できる?」
市役所から突然届く「差し押さえ予告通知」「差押通知書」——これを受け取ったとき、多くの方がパニックに陥ります。しかし、差し押さえには一定のプロセスがあり、早めに市役所の納税担当窓口に相談することで、多くのケースで回避・解除が可能です。
本記事では、市役所による差し押さえの法的根拠・対象となる財産・進行するまでの流れ・回避・解除の具体的な方法まで、税金の滞納で困っているすべての方に向けて丁寧に解説します。
市役所が差し押さえをする法的根拠

地方税法に基づく強制徴収権限
市区町村(市役所)は、住民税・固定資産税・国民健康保険税などの地方税を滞納した住民に対して、地方税法(第68条・第373条など)に基づき、裁判所の判決なしに直接財産を差し押さえる権限(強制徴収権)を持っています。
これは民間の債権者(消費者金融・カード会社など)とは大きく異なる点です。民間債権者が差し押さえをするには裁判所の判決・命令が必要ですが、市役所は行政機関として自ら差し押さえを執行できます。
総務省「令和4年度地方税徴収状況調査」によると、地方税の滞納額(新規発生分)は全国で約9,300億円に上り、このうち市区町村税分が大部分を占めています。徴収率向上のため、差し押さえをはじめとする強制徴収の活用が全国的に強化されています。
差し押さえの対象となる主な財産
市役所が差し押さえる対象となる財産には以下のものがあります。
| 財産の種類 | 具体例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 預貯金 | 銀行・郵便局・信用金庫などの口座 | 残高が全額差し押さえられることがある |
| 給与(給料) | 勤務先から支払われる月額給与 | 手取りの4分の3は差し押さえ禁止(最低生活保護額相当は除外) |
| 不動産 | 自宅・土地・建物 | 公売(強制競売)により換価される |
| 生命保険の解約返戻金 | 積立型の生命保険 | 解約手続きを市が行い現金化する |
| 自動車 | 登録車両 | 公売により換価される |
| 売掛金・報酬 | 自営業者・フリーランスの売上代金 | 取引先に直接差し押さえ通知が送られる |
| 有価証券 | 株式・投資信託・国債など | 換価して税に充当される |
差し押さえが禁止されている財産:
- 生活必需品(衣服・寝具・家具・台所用品など)
- 月収手取りの4分の3(または33万円のうち高い方)を超える部分の給与
- 職務に不可欠な器具(農機具・業務用機械など一定のもの)
- 学校の教科書・仏壇・位牌など
差し押さえが実行されるまでの流れ

差し押さえはある日突然行われるわけではありません。通常、複数の段階を経て進行します。
STEP 1:納期限(納付期日)を過ぎる
住民税・固定資産税などには年4回程度の納期限が設定されています。この期限を過ぎると「滞納」状態になります。
STEP 2:督促状の送付(納期限後20日以内)
地方税法の規定により、納期限後20日以内に督促状が送付されます。督促状が届いた時点で、延滞金(年8.7%程度)の計算が開始されています(令和6年度基準)。
延滞金の目安: 住民税10万円を6か月間滞納した場合、延滞金は約4,350円(年率8.7%で計算)。1年間では約8,700円が加算されます。滞納額が大きいほど延滞金も膨らみます。
STEP 3:催告書・催告電話・訪問
督促状を無視し続けると、市役所の徴収担当から催告書の送付・電話・自宅訪問による催促が行われます。この段階でも連絡・相談を無視した場合、差し押さえに向けた準備が始まります。
STEP 4:差し押さえ予告通知
差し押さえを実施する前に、「差押予告通知書(最終催告書)」が送付されることがほとんどです。「〇〇日までに納付がない場合は差し押さえを実施します」という内容の最後通告です。
この段階が最後のチャンスです。 差し押さえ予告通知が届いたら、即日で市役所の納税課・収納課に連絡してください。
STEP 5:財産調査
差し押さえに向けて、市役所の徴収担当は滞納者の財産を調査します。
- 預貯金の照会: 全国の金融機関に対して残高照会を行う権限がある
- 給与の照会: 勤務先への調査
- 不動産の調査: 法務局の登記情報を照会
- 生命保険・自動車の調査: 保険会社・陸運局への照会
「バレない」という考えは危険: 市役所は法律上、金融機関・勤務先・保険会社などに対して直接照会する権限を持っています。預貯金残高や勤務先は、滞納者が申告しなくても調査で把握されます。
STEP 6:差し押さえの実行
財産調査の結果をもとに、市役所が差し押さえを実行します。
- 預貯金の場合: 金融機関に「差押通知書」が送付され、口座が凍結・差し押さえられます。滞納者が金融機関のATMを使おうとしても残高が引き出せない状態になります
- 給与の場合: 勤務先の会社に「差押通知書」が送付され、会社が給与の一部(差し押さえ可能額)を市役所に直接支払う形になります
- 不動産の場合: 差し押さえ登記が行われ、その後「公売」手続きに移行します
STEP 7:換価(公売)・充当
差し押さえた財産を売却(公売・換価)し、その代金を滞納税額・延滞金に充当します。不動産・自動車の公売はインターネット公売(Yahoo!官公庁オークション等)で行われるケースが増えています。
差し押さえを回避するための具体的な方法

方法①:今すぐ市役所の納税窓口に電話・来庁する
差し押さえを回避するための最も重要かつ効果的な行動は、「今すぐ市役所の納税課・収納課に連絡すること」です。
「恥ずかしい」「怖い」「どうせ無駄だ」という気持ちがあっても、連絡しないことが最も状況を悪化させます。
電話でまず伝えること: 「住民税(または固定資産税)が支払えない状況です。相談させてください」
この一言だけで、担当者が状況を聞いたうえで分割払いや猶予の手続きを案内してくれます。
方法②:分割納付(納付計画)の締結
一括納付が困難な場合、分割払いの計画を市役所と締結することで差し押さえを止めることができます。
分割納付のポイント:
- 毎月無理なく払える金額をベースに計画を立てる
- 一度締結した分割計画を守り続けることが最重要(1回でも滞ると差し押さえが再開されることがある)
- 延滞金は分割期間中も加算され続けるが、生活を守りながら解決するための現実的な手段
方法③:換価の猶予・徴収の猶予の申請
以下の要件を満たす場合、法律(地方税法第15条・第15条の3)に基づく「徴収の猶予」または「換価の猶予」を申請することができます。
徴収の猶予(最長1年・延長で最大2年):
- 財産に重大な損失を受けた(災害・盗難など)
- 病気・ケガで多額の出費が生じた
- 廃業・休業により事業に著しい損失が生じた
- 特定の収入が予定通り得られなかった
換価の猶予(最長1年): 差し押さえた財産をすぐに売却すると事業継続または生活維持が著しく困難になる場合に、売却を一時的に待ってもらう制度です。
方法④:生活困窮者自立支援制度・生活保護の相談
滞納の背景に深刻な生活困窮がある場合は、税金の問題だけでなく生活全体の立て直しを支援する制度を利用することも重要です。
- 生活困窮者自立支援制度: 市役所の福祉課に相談することで、家計改善支援・就労支援などが受けられます
- 生活保護の申請: 収入・資産が最低生活費を下回る場合は生活保護の申請を検討。生活保護受給中は住民税は非課税になります

差し押さえされた後の解除・取り消し方法

解除の基本:滞納額と延滞金を全額納付する
差し押さえの最も確実な解除方法は、滞納している税額と延滞金の全額を納付することです。納付が確認されると、差し押さえが解除(預貯金の凍結解除・不動産の差し押さえ登記抹消など)されます。
一部納付+残額の分割計画による解除交渉
全額一括が困難な場合でも、ある程度の金額を一括で納付し、残額の分割計画を提示することで差し押さえの解除を交渉できる場合があります。
例えば「滞納額の半分を今日納付し、残りを6か月で分割します」という提案が通るケースがあります。交渉の余地があるかどうかは市役所・ケースによって異なりますので、直接担当者と相談してください。
異議申し立て・換価停止の申請
差し押さえ自体が違法・不当であると考える場合、以下の手段があります。
① 差し押さえ処分への不服申し立て(審査請求) 差し押さえ処分に不服がある場合、差し押さえ通知を受け取った日の翌日から3か月以内に市区町村長に対して審査請求を行えます。
② 換価(公売)の執行停止申し立て 公売(不動産・自動車の売却)が決まった段階でも、裁判所への執行停止申立てにより公売を一時的に止めることが可能な場合があります。この段階では弁護士への相談が不可欠です。
弁護士・税理士への相談
差し押さえの解除・不服申し立てについては、専門家(弁護士・税理士・行政書士)のサポートを受けることで有利に進められることがあります。
- 法テラス(日本司法支援センター): 収入基準を満たせば無料で弁護士に相談できる(0570-078374)
- 各地の弁護士会の法律相談: 30分5,500円程度で相談できる
- 税理士への相談: 税務上の問題(延滞金の計算・猶予申請の書類作成など)をサポート
差し押さえに関するよくある誤解

誤解①:「差し押さえ予告通知が来ても無視すれば大丈夫」
これは最も危険な誤解です。 予告通知を無視した場合、通常1〜数か月以内に実際の差し押さえが実行されます。無視することで選択肢が急速に狭まります。
誤解②:「口座の名義を変えれば差し押さえを逃れられる」
名義変更による差し押さえ回避は「滞納処分免脱罪」という犯罪に該当する場合があります。懲役・罰金の対象になるリスクがあり、絶対に行ってはいけません。
誤解③:「給与が全額差し押さえられる」
給与の差し押さえには法律上の上限(禁止額)があります。手取り給与の4分の3(または33万円のうち高い方)は差し押さえ禁止です。例えば手取り月収20万円なら、差し押さえ可能なのは最大5万円(20万円の4分の1)のみです。
誤解④:「差し押さえされたら社会的信用が完全に失われる」
差し押さえはクレジットカードのブラックリスト(信用情報機関への登録)とは別の話です。ただし、勤務先への給与差し押さえ通知は職場に税金の滞納を知られることになるため、社会的な影響は否定できません。早期に解決することが最善です。
税金を払えなくなったときの相談窓口

| 相談先 | 連絡先・場所 | 対応内容 |
|---|---|---|
| 市役所 納税課・収納課 | 市役所内 | 分割払い・猶予・減免の相談(最初の相談先) |
| 法テラス(日本司法支援センター) | 0570-078374 | 法律全般の無料相談(収入基準あり) |
| 弁護士会の法律相談センター | 各都道府県 | 差し押さえ不服申し立て・解除の法的対応 |
| 税理士会の相談窓口 | 各都道府県 | 猶予申請書の作成・税務処理サポート |
| 生活困窮者自立支援窓口 | 市役所 福祉課 | 生活全体の立て直し支援 |
よくある質問(FAQ)

Q. 差し押さえ予告通知が届いた。何日以内に動けばいい?
A. 届いた当日または翌日中に市役所の納税課に連絡することをおすすめします。予告通知に記載されている「差し押さえ実施予定日」まで通常2〜4週間程度の猶予があることが多いですが、自治体によって異なります。「通知が来てから少し様子を見よう」は絶対に避けてください。
Q. 差し押さえされた口座からお金が引き出せなくなった。生活費はどうする?
A. 口座が差し押さえられた場合でも、差し押さえ可能額を超える残高については引き出せます。ただし、差し押さえ可能額全額が凍結されている場合、生活費の確保が困難になることがあります。この場合は市役所に「生活費が確保できない」と申し出ることで、最低生活費相当額の差し押さえ禁止額の設定を求める交渉ができます。
Q. 延滞金が高くなりすぎた。減額してもらえる?
A. 延滞金の減免は原則として困難ですが、一定の事情(災害・病気など)がある場合は延滞金の全部または一部の免除申請ができます。また、滞納税を早期に解決することが延滞金を最小化する唯一の方法です。「支払う意思があること」を市役所に示し、早期解決に向けて動くことが最善策です。
Q. 固定資産税を滞納している。自宅を差し押さえられる?
A. 固定資産税の滞納が長期化すると、自宅(不動産)への差し押さえが行われ、最終的には公売(強制競売)によって売却されることがあります。ただし、不動産の公売は時間がかかるプロセスであり、差し押さえ登記がされた後でも分割納付や猶予の申請で公売を回避できるケースがあります。 不動産への差し押さえ登記がされた場合は、速やかに市役所・弁護士に相談してください。
まとめ:差し押さえは「放置」が最大の敵。早めの相談が唯一の解決策

本記事の重要ポイントをまとめます。
- 市役所の差し押さえは地方税法に基づく合法的な強制徴収。裁判所の判決なしに実行される
- 差し押さえの対象は預貯金・給与・不動産・生命保険・自動車・有価証券など幅広い
- 差し押さえまでには「督促状→催告→予告通知→財産調査→差し押さえ実行」という段階がある
- 差し押さえ予告通知が届いた時点が回避できる最後のチャンス
- 回避の手段は市役所への相談・分割払い・徴収の猶予・換価の猶予の4つ
- 「口座名義変更による回避」は犯罪(滞納処分免脱罪)。絶対にやってはいけない
- 給与差し押さえには手取りの4分の3は禁止という上限がある
- 「今すぐ市役所の納税課に電話する」が最善かつ最も効果的な行動
「差し押さえを受けた」「通知が届いた」という状況で最も重要なのは、パニックにならず冷静に市役所の担当窓口に連絡することです。多くのケースでは、連絡・相談することで解決策を見つけることができます。一人で抱え込まず、まず電話一本からはじめてください。
