民間企業での経験を活かして地方公務員への転職を目指す「中途採用」が、近年増加しています。
この記事では、中途採用と経験者採用の違い、受験資格、試験内容、合格のための戦略、採用後の待遇まで、具体的なデータと事例を交えて詳しく解説します。
地方公務員の中途採用とは

中途採用の定義と背景
地方公務員の中途採用とは、新卒一括採用ではなく、社会人経験を持つ人材を採用する制度です。正式には「経験者採用試験」「社会人経験者採用試験」「民間企業等職務経験者採用試験」などと呼ばれます。
導入の背景として、少子高齢化による受験者数の減少、民間の専門知識・ノウハウの必要性、組織の新陳代謝と多様性の確保、即戦力人材の確保などがあります。
総務省の調査によると、都道府県・政令指定都市のほぼすべて、中核市の約9割、一般市でも約6割が中途採用(経験者採用)を実施しています(令和4年度)。
新卒採用だけでは人材確保が難しくなる中、中途採用の枠は年々拡大傾向にあります。
民間企業での経験が評価される時代になっています。
経験者採用・社会人採用との違い
中途採用に関連する用語を整理しましょう。
中途採用は、一般的な用語で、新卒以外の採用全般を指します。
経験者採用試験は、特定の職務経験を有する者を対象とした採用試験です。多くの自治体で使われる正式名称です。
社会人経験者採用試験で、社会人としての経験(職種問わず)を重視する採用試験です。幅広い職種が対象となります。
民間企業等職務経験者採用試験は、民間企業での職務経験を明確に求める採用試験です。
実質的には同じで、自治体により名称が異なりますが、実質的には「社会人経験を持つ人の採用」という点で共通しています。
一般行政職(新卒)との違いとして、新卒採用は年齢制限が厳しく(概ね30歳未満)、試験科目が多い一方、中途採用は年齢上限が高く(40歳以上も可)、実務経験が重視されます。

中途採用のメリット
民間企業から地方公務員への転職には、以下のメリットがあります。
安定した雇用:民間企業のようなリストラや倒産のリスクがほとんどありません。
ワークライフバランス:残業が比較的少なく、休暇も取りやすい傾向があります(部署により差はあります)。
社会貢献のやりがい:住民の生活に直接貢献でき、公共の利益のために働けます。
福利厚生の充実:共済組合の手厚い保障、充実した休暇制度、安定した退職金などがあります。
民間経験が活かせる:DX推進、シティプロモーション、民間活力の導入など、民間経験を活かせる分野が増えています。
受験資格と年齢制限

年齢要件の実態
中途採用の年齢要件は、自治体により大きく異なります。
一般的な年齢範囲として、下限:概ね25歳から30歳(職務経験年数の要件により実質的に決まる)、上限:概ね35歳から59歳(自治体により大きく異なる)となっています。
都道府県・政令指定都市では、上限年齢が59歳と高めに設定されている自治体が多くあります。東京都、大阪市などは年齢制限を撤廃または大幅に緩和しています。
中核市・一般市の場合、上限年齢が40歳から45歳程度の自治体が多い傾向です。
職種による違いにより、一般事務職より、専門職(IT、土木、建築など)の方が年齢上限が高い傾向があります。

年齢制限緩和の傾向として、人材確保難を背景に、年齢上限を引き上げる、または撤廃する自治体が増えています。
職務経験年数の要件
年齢だけでなく、職務経験年数の要件もあります。
一般的な要件として、3年以上または5年以上の職務経験が求められることが多いです。
正社員限定か否かにより、正社員としての経験に限定する自治体と、契約社員・派遣社員も含める自治体があります。募集要項を必ず確認しましょう。
職種の限定として、一般事務職は職種を問わない場合が多い一方、専門職(IT、土木など)は特定分野での経験を求められます。
アルバイト・パートは、原則として対象外ですが、フルタイムに近い勤務であれば認められることもあります。事前に確認が必要です。
その他の受験資格
年齢と経験年数以外の要件も確認しましょう。
学歴要件として、多くの自治体で学歴不問ですが、技術職では関連学部卒業を求める場合があります。
資格要件では、専門職(保健師、建築士など)では関連資格の保有が必須です。
居住地要件により、ほとんどの自治体で居住地の制限はありませんが、採用後に当該自治体内または通勤可能範囲に居住できることが条件となる場合があります。
欠格事由として、地方公務員法第16条に定める欠格条項(禁錮以上の刑に処せられた者など)に該当しないことが必要です。
国籍要件では、一般事務職は原則として日本国籍が必要ですが、技術職などでは国籍を問わない自治体もあります。
試験内容と選考プロセス

一次試験の内容
中途採用の一次試験は、新卒採用より負担が軽い傾向があります。
教養試験(択一式)は、新卒採用より出題範囲が狭く、難易度も低めです。SPI3、SCOA、公務員試験の簡易版などが使用されます。出題数は40問程度、時間は90分から120分が一般的です。
専門試験の有無については、一般事務職では専門試験を課さない自治体が増えています。技術職では専門試験がある場合もあります。
論文試験・小論文試験では、ほぼすべての自治体で実施されます。テーマは「自治体の課題と解決策」「民間経験の活かし方」「目指す公務員像」などです。文字数は800字から1,600字程度、時間は60分から90分が標準的です。
書類選考として、一部の自治体では、筆記試験の前に書類選考(エントリーシート審査)を実施します。
二次試験以降の選考
筆記試験合格者は、人物試験に進みます。
個別面接は、通常2回から3回実施されます。一次面接は人事担当者、二次面接は配属予定部署の管理職、最終面接は幹部職員や首長(市長・知事など)が面接官を務めます。
質問内容として、志望動機(なぜ公務員か、なぜこの自治体か)、これまでの職務経験と実績、民間経験をどう活かすか、自治体の課題への見解、転職理由(ネガティブな理由は避ける)、ストレス耐性、協調性などが問われます。
集団討論・グループワークでは、5人から8人程度のグループで与えられたテーマについて議論します。協調性、論理性、リーダーシップなどが評価されます。
プレゼンテーション試験により、事前課題や当日提示されたテーマについて、10分程度で発表します。論理的思考力、表現力が評価されます。
適性検査として、性格や適性を測るテストです。多くの自治体で実施されますが、参考資料として扱われることが多いです。
選考スケジュール
中途採用の選考スケジュールは、自治体により異なります。
春季募集では、4月から5月に募集開始、6月から7月に一次試験、8月から9月に二次試験、10月に最終合格発表、翌年4月に採用という流れが一般的です。
秋季募集として、9月から10月に募集開始、11月から12月に試験、1月から2月に合格発表、4月採用となるパターンもあります。
通年採用により、一部の自治体では、年に複数回募集したり、通年で募集したりしています。
スケジュールの確認が重要で、志望自治体の採用情報は、定期的にホームページをチェックしましょう。
合格のための対策

教養試験対策
教養試験は、新卒採用より易しいとはいえ、対策は必要です。
出題傾向の把握:志望自治体が使用する試験(SPI3、SCOA、公務員試験型など)を確認し、その傾向を把握します。
一般知能分野を優先:文章理解、判断推理、数的推理は配点が高いため、重点的に対策します。
一般知識は頻出分野に絞る:政治、経済、社会、時事問題を中心に学習し、範囲の広い自然科学などは最低限に抑えます。
過去問演習:過去問対策が最も効果的で、過去問や予想問題を繰り返し解き、形式に慣れることが重要です。
学習期間:3ヶ月から6ヶ月程度の準備期間が目安です。働きながらの受験なら、計画的に進めましょう。
論文試験対策
論文試験は差がつきやすく、重要な科目です。
自治体研究が不可欠で、志望自治体の総合計画、重点施策、予算、統計データなどを熟読します。その自治体ならではの課題を理解しましょう。
頻出テーマの準備として、人口減少・少子高齢化、地域活性化・まちづくり、防災・減災、DX推進、環境問題、子育て支援などのテーマについて、自分の考えをまとめておきます。
文章構成では、PREP法(結論→理由→具体例→結論)を基本に、序論・本論・結論の三部構成を意識します。
民間経験を活かす視点で、民間での経験や実績を、公務でどう活用するか具体的に述べることが高評価につながります。
添削を受けることが重要です。予備校の添削サービスや、公務員の知人などに添削してもらいましょう。
面接試験対策
面接は最終合否を決める最重要試験です。
想定問答集の作成により、志望動機、転職理由、職務経験と実績、民間と公務の違い、自治体への理解度、ストレス対処法などの質問を想定し、回答を準備します。
STAR法の活用として、職務経験を説明する際、Situation(状況)、Task(課題)、Action(行動)、Result(結果)の順で具体的に説明します。数値で示せる成果があれば必ず含めましょう。
模擬面接の実施が効果的で、予備校、キャリアセンター、友人・家族などに協力してもらい、本番を想定した練習を行います。
自治体の深い理解により、自治体の施策、課題、特色、最近のニュースなどを把握します。実際に現地を訪れることも有効です。
転職理由はポジティブに表現し、「民間が嫌だから」ではなく、「公務員として○○を実現したい」という前向きな動機を伝えます。
採用後の待遇とキャリア

初任給の決定方法
中途採用の場合、経験年数に応じて初任給が決定されます。

経験年数の換算により、民間企業での勤務年数を公務員の経験年数に換算し、相当する号給が決定されます。換算率は自治体により異なりますが、概ね60%から80%程度が一般的です。
具体例として、民間企業で10年間勤務した場合、6年から8年分の経験年数として換算され、その年数に応じた号給からスタートします。
給与水準の目安では、30歳で経験7年の場合:月給25万円から30万円程度(自治体や学歴により変動)、35歳で経験12年の場合:月給30万円から35万円程度となります。
これに加えて、地域手当、扶養手当、住居手当、通勤手当などの諸手当が支給されます。


昇進・昇格
中途採用者の昇進は、実力次第です。
新卒採用者との違いとして、かつては新卒採用者が優遇される傾向がありましたが、近年は実力主義が進み、中途採用者でも実績次第で昇進できます。
人事評価制度は、多くの自治体で導入されており、成果や能力が評価されます。
管理職への登用では、優秀な中途採用者が、採用後10年程度で課長級に昇進した事例もあります。
年齢による制約として、採用時の年齢が高い場合、定年までの期間が短いため、最高位まで昇進するのは現実的に難しい面はあります。
福利厚生・退職金
公務員ならではの手厚い福利厚生があります。
共済組合に加入し、医療給付(付加給付あり)、年金、福利厚生施設の利用、各種貸付制度などのサービスが受けられます。

休暇制度として、年次有給休暇20日(繰越可能)、病気休暇(有給)、夏季休暇、結婚休暇、忌引休暇、育児休業、介護休暇などがあります。

退職金も充実しており、中途採用でも、勤続年数に応じた退職金が支給されます。例えば、35歳で採用され60歳定年まで25年勤務した場合、1,000万円から1,500万円程度の退職金が見込めます(自治体や給与水準により異なる)。

中途採用のよくある質問

民間企業と併願できる?
答え:可能ですが、スケジュール管理が重要です。
民間企業の選考と公務員試験を併願することは可能です。ただし、公務員試験は6月から9月に集中するため、民間の選考(3月から6月が多い)とスケジュールを調整する必要があります。
どちらを第一志望とするか明確にし、優先順位をつけることが重要です。
40代・50代でも合格できる?
答え:可能ですが、年齢制限と競争率に注意が必要です。
年齢上限が59歳という自治体もあるため、40代・50代でも受験は可能です。実際に、50代で合格した事例も存在します。
ただし、年齢が高いほど「なぜ今公務員なのか」という質問に説得力のある回答が求められます。また、若年層と比較すると競争は厳しくなります。
専門性の高い職種(IT、技術職など)の方が、年齢が高くても採用されやすい傾向があります。
公務員試験の予備校は必要?
答え:独学でも可能ですが、予備校利用にメリットはあります。
中途採用は新卒採用より試験科目が少ないため、独学でも合格は可能です。特に、論文と面接に自信がある方は独学でも十分です。
ただし、予備校を利用すると、論文の添削、模擬面接、最新情報の提供、効率的な学習計画などのメリットがあります。
費用対効果を考えて、自分に合った方法を選びましょう。通信講座という選択肢もあります。
職種の制限はある?
答え:配属先は組織のニーズにより決定されます。
一般事務職として採用された場合、どの部署にも配属される可能性があります。必ずしも希望通りの配属になるとは限りません。
ただし、面接で希望を伝えることは可能ですし、民間での専門性(IT、財務、法務など)が活かせる部署に配属される可能性は高まります。
専門職(土木、建築など)として採用された場合は、その専門分野の部署に配属されます。
まとめ:中途採用で新たなキャリアを築こう

地方公務員の中途採用について、重要なポイントをまとめます。
中途採用の機会は拡大していることを理解しましょう。都道府県・政令市のほぼすべてが実施、年齢上限も緩和傾向(40歳以上、自治体によっては59歳まで可能)、民間経験が評価される時代となっています。
試験対策は計画的に進めてください。教養試験は3ヶ月から6ヶ月の準備が目安、論文は自治体研究が不可欠、面接は民間経験を公務でどう活かすかが鍵、模擬面接や論文添削を活用することが重要です。
採用後の待遇も魅力的です。経験年数に応じた給与(換算率60-80%)、実力次第で昇進可能、手厚い福利厚生と退職金、ワークライフバランスが実現しやすい環境があります。
成功のポイントとして、明確な志望動機(公務員を選ぶ理由、その自治体を選ぶ理由)、民間経験の具体的な実績とアピール、自治体への深い理解と熱意、誠実で前向きな姿勢が重要です。
最後に
地方公務員への中途採用は、民間での経験を活かして社会貢献できる、やりがいのあるキャリアチェンジです。年齢や経歴に関わらず、情熱と準備があれば合格のチャンスはあります。
この記事を参考に、しっかりと準備を進め、中途採用試験に挑戦してください。あなたの豊かな経験が、地方行政の発展に貢献する日を応援しています。

