「市役所ってどんな仕事をしているの?」「採用試験の面接で市役所の事業内容を聞かれたが、うまく答えられない」「市役所の業務範囲が広すぎてイメージできない」
市役所(市区町村役場)は住民に最も身近な行政機関ですが、「窓口で書類を発行する場所」というイメージで止まっている方は多いです。実際には、住民の生活の「生まれる前から亡くなった後まで」にわたる幅広い事業を担う、地域社会の中核機関です。
本記事では、市役所の事業内容を部署別・分野別に網羅的に整理します。採用試験の準備・仕事の理解・住民として活用できるサービス把握など、さまざまな目的を持つ方に向けて、市役所が行っている事業のすべてを分かりやすく解説します。
市役所(地方自治体)の役割と法的根拠

地方自治体の使命とは
市区町村は地方自治法(第1条の2)に基づき、住民の福祉の増進を図ることを基本とし、地域における行政を自主的・総合的に実施する役割を担っています。
国(中央政府)が全国一律の制度・政策を定める一方、市区町村はその制度を住民の生活に密着した形で実施するとともに、地域固有の課題に対応した独自の施策を展開します。
総務省「地方財政白書(令和5年版)」によると、市区町村の歳出総額は約53兆円(2022年度)に達し、国の一般会計歳出(約107兆円)の約半分に相当する規模の事業を担っています。
市役所の事業の大分類
市役所の事業は大きく以下の3つに分類できます。
| 事業の種類 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 法定受託事務 | 国が本来担うべきだが、市区町村に委託している事務 | 戸籍・住民票の管理、生活保護の決定・実施 |
| 自治事務(義務的) | 法律で市区町村が行うことを義務づけられた事務 | 保育所の設置・学校教育、ゴミ収集、介護保険の運営 |
| 自治事務(任意) | 市区町村が独自の判断で実施する事務 | 独自の子育て支援、観光振興、地域活性化事業 |
この3つが組み合わさることで、市役所は住民生活のあらゆる場面に関わる広範な事業を展開しています。
市役所の主要な事業内容:分野別完全ガイド

分野①:戸籍・住民記録管理(市民課・戸籍住民課)
市役所の「顔」とも言える窓口業務です。住民の基本的な情報を管理し、行政サービスの基盤を支えます。
主な事業内容:
- 住民基本台帳の管理: 住民の住所・氏名・生年月日・世帯構成の登録・変更・抹消
- 転入・転出・転居届の受付
- 住民票・戸籍謄本などの証明書発行
- 印鑑登録・証明
- マイナンバーカードの申請受付・交付
- 外国籍住民の在留管理支援
総務省の調査によると、市区町村の住民異動届件数は年間約1,700万件以上(2022年度)に上り、1日に数万件単位で全国の市役所が処理しています。
分野②:税務(税務課・市民税課・資産税課・納税課)
地域を支える財源を確保するための事業です。
主な事業内容:
- 住民税(市民税・都道府県民税)の課税・徴収:前年所得をもとに課税額を算定し、納税通知書を送付
- 固定資産税・都市計画税の課税・徴収:3年ごとの評価替えを行い、土地・家屋・償却資産の評価額を算定
- 軽自動車税の課税・徴収
- 滞納整理・徴収対策:督促・差し押さえ・分割納付交渉
- 国民健康保険税の賦課(国保担当課と連携)
税務部門は市の最大の自主財源(地方税)を管理する重要な部門です。住民税・固定資産税だけで市区町村の歳入の30〜50%程度を占める自治体が多く、財政の根幹を支えています。

分野③:社会福祉(福祉課・生活支援課・高齢者福祉課)
高齢化社会を背景に、最も業務量が拡大している分野の一つです。
主な事業内容:
【生活保護】
- 生活保護の申請受付・審査・決定・廃止
- ケースワーカーによる家庭訪問・自立支援
- 就労支援・生活困窮者自立支援

【高齢者福祉】
- 介護保険の認定・給付管理
- 地域包括支援センターの運営・連携
- 介護予防事業(転倒予防・認知症予防)の企画・実施
- 老人クラブ支援・シルバー人材センターとの連携
【障がい者福祉】
- 障害者総合支援法に基づく障がい福祉サービスの支給決定
- 身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳の交付
- 自立支援給付(介護給付・訓練等給付・補装具費支給など)
- 障がい者の就労・社会参加支援
分野④:子育て支援・保育(子育て支援課・保育課・こども家庭センター)
少子化対策として、国・自治体とも最重点施策に位置づけている分野です。
主な事業内容:
- 保育所・認定こども園の認可・運営管理:施設の整備・入所選考・保育料徴収
- 子ども・子育て支援法に基づく給付管理
- 乳幼児健診(3〜4か月・1歳6か月・3歳)の実施
- 育児相談・電話相談・家庭訪問(産後うつ対応含む)
- ファミリーサポートセンターの運営
- 児童手当・子育て支援医療費助成の給付管理
- 虐待通報への対応・要保護児童対策地域協議会の運営
- こども家庭センター(2024年度〜全自治体設置義務化)
2024年4月の「こども基本法」「こども大綱」の施行に伴い、市区町村の子育て支援機能は大幅に拡充されています。子育て家庭に対するワンストップ支援を担う「こども家庭センター」が全国に設置義務化されたことは、近年の最大の変化の一つです。
分野⑤:健康・保健(保健センター・健康推進課)
住民の健康増進・疾病予防を担う分野です。
主な事業内容:
- 特定健康診査(メタボ健診)・後期高齢者健康診査の実施・勧奨
- 各種がん検診(胃・大腸・肺・乳・子宮頸がん)の企画・実施
- 予防接種(定期接種・任意接種)の管理・接種事業
- 母子保健事業(妊婦健診補助・産前産後ケア・産後訪問)
- 健康増進事業(禁煙支援・食育推進・運動習慣促進)
- 精神保健福祉相談(うつ・依存症・引きこもり支援)
- 感染症対策(発生動向調査・まん延防止・予防接種接種体制)
分野⑥:環境・衛生(環境課・生活環境課・廃棄物対策課)
住民の日常生活環境を守り、持続可能なまちづくりを支援します。
主な事業内容:
- 一般廃棄物(家庭ゴミ)の収集・処理:ゴミ収集の計画・実施・処理施設の管理
- ごみの減量化・リサイクル推進:資源ゴミ回収・ゴミ分別指導・3R推進啓発
- 環境保全・公害対策:騒音・振動・水質・大気の監視・指導
- 浄化槽の管理指導・下水道の整備推進
- 害虫・害獣対策:蚊・ハチ・ネズミなどの防除指導・公共施設での駆除
- 地球温暖化対策・脱炭素推進:省エネ推進・再生可能エネルギー導入支援
- 動物愛護・適正飼養指導
分野⑦:都市計画・建築(都市計画課・建築指導課・住宅課)
住みやすいまちの形成を担う、長期的・専門的な分野です。
主な事業内容:
- 都市計画の策定・変更:用途地域・地区計画・景観計画の策定
- 開発許可・建築確認申請の審査
- 空き家対策:空家法に基づく調査・指導・活用促進
- 市営住宅の管理・入居者選定:入居申請受付・家賃管理・修繕対応
- 道路・公園の整備・維持管理:市道の新設・拡幅・補修、公園の設置・維持
- 土地区画整理事業・市街地再開発事業の推進
- 住宅取得支援・リフォーム助成制度の実施
分野⑧:産業振興・農林水産(産業振興課・農業振興課・観光課)
地域経済の活性化・雇用創出を担う分野です。
主な事業内容:
- 中小企業・小規模事業者支援:融資あっせん・経営相談・創業支援
- 農業振興・農地保全:農業委員会の運営・農地転用許可・農業者支援
- 商店街・地域商業の活性化支援:商店街イベント補助・空き店舗対策
- 観光振興:観光資源の発掘・観光PRキャンペーン・インバウンド対応
- 雇用促進・就労支援:ハローワークとの連携・就労相談窓口の運営
- ふるさと納税の運営管理:返礼品調達・寄附管理・PR活動
分野⑨:教育(教育委員会・学校教育課・生涯学習課)
市区町村の教育委員会が担う事業です。
主な事業内容:
- 小学校・中学校の設置・管理運営:学校施設の整備・教職員の給与管理・就学援助
- 学校給食の管理・提供
- 特別支援教育の推進
- 公民館・図書館・スポーツ施設の管理・運営
- 生涯学習事業:講座・教室・文化活動の企画・実施
- 文化財の保護・活用:文化財調査・指定・維持管理
- 青少年育成事業:放課後子ども教室・子ども会支援
分野⑩:企画政策・行政改革(企画政策課・DX推進課・総務課)
市役所全体を方向づける「司令塔」的な部署が担う事業です。
主な事業内容:
- 総合計画の策定・推進管理:市の将来ビジョン・施策の体系的な計画
- 行政評価・事務事業評価の実施:施策の効果検証・改善サイクルの運営
- 行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進:オンライン化・AI活用・電子申請の普及
- 広報・広聴:広報誌・SNS・市民の声の収集・市政への反映
- 地方創生・移住定住促進:人口減少対策・UIJターン支援
- 国際化・多文化共生推進:外国籍住民支援・国際交流事業
分野⑪:危機管理・防災(危機管理課・防災担当)
住民の生命・財産を守る事業です。
主な事業内容:
- 地域防災計画の策定・更新
- 防災訓練・避難訓練の実施・支援
- 避難所の整備・管理(学校・公民館を中心とした避難所指定・備蓄管理)
- ハザードマップの作成・更新・周知
- 消防団の支援・育成
- 緊急情報(防災メール・防災無線)の管理・運用
- 国民保護計画の策定・訓練
採用試験での「市役所の事業内容」への備え方

面接・論文で事業内容を問われたときの答え方
市役所の採用試験(特に面接・論文)では、「市役所がどんな仕事をしているか」についての理解が評価されます。

効果的な準備ステップ:
① 志望する市の総合計画を読む 市役所の公式ホームページに掲載されている「総合計画(第○次)」は、市が今後力を入れる事業・施策の全体像を示す最重要ドキュメントです。必ず事前に通読しておきましょう。
② 志望部署の事業内容を具体的に調べる 「どの部署で・どんな事業に関わりたいか」を具体的に話せるようにしておくことが合格への近道です。「子育て支援が充実した市にしたいから保育課を志望」「地域のDX推進に携わりたいから情報政策課を志望」という形で、事業内容と自分のキャリアビジョンをつなぐことが重要です。
③ 市の直近の施策・トピックを把握する 広報誌・市長の記者会見・市議会の議事録などから、今市が特に力を入れている事業・直面している課題を把握しましょう。面接で「○○市が取り組む△△事業について、あなたはどう思いますか?」という形で問われることがあります。
よくある質問(FAQ)

Q. 市役所と区役所・町役場の事業内容は同じ?
A. 基本的な法定業務(戸籍・税務・福祉・健康保険など)は共通していますが、自治体の規模・財政力・地域特性により独自の事業の種類・規模は大きく異なります。政令指定都市の区役所は都道府県と同等の権限を持つ事業も担い、小規模市町村では複数の部署が兼務する形で同様の事業を行っています。
Q. 市役所は民間企業と仕事内容が似ている部分はある?
A. 事務処理・ITシステム運用・広報・人事・経理など、組織運営に関わる業務は民間企業と似通った部分があります。一方、「利益を追求しない」「すべての住民に平等にサービスを提供する義務がある」という点は民間と根本的に異なります。近年は民間の効率化手法(行政評価・DX・アウトソーシング)を積極的に取り入れている自治体も増えています。
Q. 市役所の事業内容は今後どう変わっていくの?
A. 主に以下の3方向に変化が進んでいます。①デジタル化(DX推進)によるオンライン申請・窓口の効率化、②少子高齢化対応として子育て・介護・医療の連携強化、③人口減少・財政制約への対応として自治体間連携・民間委託・事業の選択と集中。「すべてを市役所が直接行う」から「行政が設計し、民間・NPO・地域と協働して実施する」形への転換が進んでいます。
まとめ:市役所の事業内容は「住民の一生を支えるすべて」

本記事の重要ポイントをまとめます。
- 市役所の事業は戸籍・税務・福祉・保健・子育て・環境・都市計画・産業・教育・防災・企画の11分野以上にわたる
- 法的には「法定受託事務」「自治事務(義務的・任意)」の3種類に分類される
- 市区町村の歳出総額は約53兆円(2022年度)と国の一般会計の約半分に相当する巨大な公共サービス機能を担う
- 採用試験対策としては「総合計画の熟読」「志望部署の事業把握」「直近の市の施策トピック」の3点が最重要
- 近年の最大の変化はこども家庭センターの義務化・行政DX推進・空家対策強化など
- 市役所の仕事は「住民が生まれる前(妊婦支援)から亡くなった後(死亡届・葬祭支援)まで」一生涯に寄り添う
市役所の事業内容を深く理解することは、採用試験の合格だけでなく、「入庁後にどんな仕事をしたいか」という自分自身のキャリアビジョンを明確にすることにも直結します。本記事を入口に、志望する市の具体的な事業内容を調べ、面接・論文・日々の業務に役立ててください。。
