「来年度の再任用がされないと言われた…」「なぜ更新されないのか理由を教えてもらえない…」
会計年度任用職員として働いてきたのに、突然再任用されない(雇い止め)と告げられ、不安と戸惑いを感じている方へ。
2024年6月に人事院と総務省が「再任用は2回まで」という上限を撤廃したにも関わらず、実際には雇い止めが続いているのが現実です。
この記事では、更新されなかった場合の理由、不当な雇い止めかどうかの判断基準、不服申し立ての方法、今後の対処法まで、実例を交えて徹底解説します。
会計年度任用職員の再任用の仕組み

任期は原則1年
会計年度任用職員の任期は、原則として1会計年度(4月1日〜翌年3月31日)を超えない範囲です。
重要なポイント
- 任期は最長1年
- 翌年度も働くには「再度の任用」(再任用)が必要
- 再任用は「権利」ではなく「可能性」
再任用と「更新」の違い
民間企業の契約更新とは法的に異なります。
民間の契約更新
- 同じ契約の延長
- 労働契約法が適用される
- 5年ルール(無期転換)がある
公務員の再任用
- 「新たな職への改めての任用」
- 地方公務員法が適用される
- 労働契約法の適用外
- 5年ルールなし

再任用の回数制限(2024年6月まで)
2024年6月まで、多くの自治体で再任用に上限回数が設定されていました。
典型的なパターン
- 東京都: 4回まで(最長5年)
- 大阪市: 4回まで(最長5年)
- 名古屋市: 4回まで(最長5年)
- 川崎市: 4回まで(最長5年)
- 一部自治体: 2回まで(最長3年)
2024年6月の制度変更|何が変わった?

人事院・総務省の通知
2024年6月28日、人事院と総務省が重要な通知を出しました。
人事院の対応: 「公募によらない再採用は連続2回を限度とする」という記載を削除
総務省の対応: 事務処理マニュアルから再任用上限に関する例示を削除し、「各地方公共団体において適切に対処されたい」と通知
何が変わったのか?
変更前
- 再任用は原則2回まで(または自治体により4回まで)
- 上限に達したら公募に応募し直す必要
変更後
- 再任用の回数上限が法的に不要に
- 自治体の判断に委ねられる
- 勤務実績や能力実証で継続任用が可能
自治体の対応状況(2025年1月時点)
自治労連の調査(2024年10月〜12月実施)によると
上限回数を見直す自治体
- 見直しを決定または検討中: 約40%
- すでに上限を撤廃: 約15%
見直さない自治体
- 現行のまま継続: 約45%
例
- 練馬区: 2025年度から上限撤廃
- 文京区: もともと上限なし
- 世田谷区: もともと上限なし
- 名古屋市: 「撤廃する状況にない」と継続
つまり、制度が変わっても自治体によって対応が大きく異なるのが現状です。
更新されない理由|正当なケースと不当なケース

正当な理由
以下の理由による雇い止めは、一般的に正当と認められる可能性が高いです。

1. 業務の廃止・終了
具体例
- プロジェクトが終了した
- 予算がつかなくなった
- 組織改編で業務自体がなくなった
2. 再任用の上限回数に達した
適用条件
- 自治体の条例で上限が定められている
- 上限に達したことが明確
- 事前に説明されていた
ただし、2024年6月の通知後、上限を撤廃した自治体では適用されない。
3. 勤務実績が著しく不良
具体例
- 無断欠勤が多い
- 重大なミスを繰り返す
- 職務命令に従わない
- 明確な能力不足
重要: 人事評価で客観的に示されている必要がある。
不当な可能性がある理由
以下のケースは不当な雇い止めの可能性があります。
1. 理由が明示されない
問題点
- 「なんとなく」「雰囲気的に」では不十分
- 具体的な理由の説明が必要
2. パワハラ・ハラスメントが原因
実際の事例
- ハラスメントを相談したら更新されなくなった
- 上司に嫌われたら評価が下がった
- 妊娠・出産を報告したら更新拒否された
3. 恣意的な判断
問題となるケース
- 人事評価が「良好」なのに更新されない
- 同じ条件の他の職員は更新されている
- 明確な基準がない
4. 報復的な雇い止め
具体例
- 労働組合に加入したら更新されない
- 残業代の未払いを指摘したら更新拒否
- 内部告発をしたら雇い止め
雇い止めが不当かどうかを判断する5つのポイント

ポイント1: 更新への期待が合理的にあったか
確認すべきこと
- 過去に何回更新されてきたか
- 募集要項に「更新の可能性あり」と書いてあったか
- 上司から「来年も」と言われていたか
- 同じ業務が翌年度も継続するか
判断基準: 更新されると合理的に期待できる状況があったのに更新されない場合、不当性が高まります。
ポイント2: 雇い止めの理由が明確か
確認すべきこと
- 口頭または書面で理由を説明されたか
- 理由は具体的で客観的か
- 理由に納得できるか
問題となるケース
- 「総合的に判断して」としか言われない
- 理由を聞いても教えてもらえない
- 後から理由がコロコロ変わる
ポイント3: 人事評価は適切だったか
確認すべきこと
- 人事評価の結果はどうだったか
- 「良好」以上の評価を受けていたか
- 評価が低い場合、改善の機会があったか
問題となるケース
- ずっと良好評価なのに突然更新されない
- 評価理由が不明確・恣意的
- 評価基準が示されていない
ポイント4: ハラスメントや報復の要素はないか
確認すべきこと
- パワハラ・セクハラの被害を受けていたか
- ハラスメントを相談した後に評価が下がったか
- 妊娠・出産・育休取得後に態度が変わったか
- 労働組合活動や権利主張をした後か
重要: これらの要素がある場合、違法な雇い止めの可能性が高い

ポイント5: 手続きは適正だったか
確認すべきこと
- 事前に十分な説明があったか
- 更新しない旨の通知時期は適切か(1〜3ヶ月前)
- 弁明の機会があったか
問題となるケース
- 3月下旬に突然告げられた
- 一方的な通告のみ
- 相談や異議申し立ての機会がなかった
更新されなかった場合の対処法

ステップ1: 理由を確認する(即座に)
すぐにやるべきこと
- 書面での理由開示を求める
- 口頭だけでなく、必ず書面で
- 「雇い止めの理由書」の交付を請求
- やり取りを記録する
- 日時、相手、内容をメモ
- 可能なら録音(自分の記録用)
質問すべきこと
- 「具体的にどのような理由で更新されないのですか?」
- 「人事評価ではどう評価されていますか?」
- 「改善の機会はありましたか?」
- 「同じ業務は来年度も継続しますか?」
ステップ2: 証拠を集める
集めるべき証拠
- 任用関係書類
- 任用通知書
- 雇用契約書(任用書)
- 更新時の書類
- 人事評価関係
- 人事評価票
- 面談記録
- 業務実績の記録
- ハラスメント関係(該当する場合)
- メール、メモ
- 同僚の証言
- 相談記録
- その他
- 募集要項
- 勤務記録(タイムカード等)
- 業務の継続性を示す資料
ステップ3: 相談窓口を活用する
相談先の優先順位
1. 労働組合
- 自治労、自治労連などの公務員労働組合
- 個人加盟も可能
- 団体交渉権を行使できる
2. 弁護士
- 労働問題に詳しい弁護士
- 初回相談無料のところも
- 法テラスの活用も検討
3. 行政機関
- 人事委員会・公平委員会
- 総務省
- 労働局(助言・指導のみ)
4. NPO・支援団体
- 非正規公務員の支援団体
- 各地の労働相談窓口
ステップ4: 交渉を試みる
交渉の進め方
- まずは直接交渉
- 所属部署の責任者に申し入れ
- 人事課と面談を求める
- 労働組合を通じた交渉
- 組合に加入して団体交渉
- 集団で要求すると効果的
- 第三者を入れた交渉
- 弁護士同席での協議
- 労働局のあっせん制度
不服申し立て・審査請求の手順

公務員の不服申し立て制度
会計年度任用職員も地方公務員として、不服申し立てができます。
審査請求の流れ
ステップ1: 審査請求書の提出
提出先
- 人事委員会または公平委員会
- 任命権者(市長、教育委員会など)を経由
提出期限
- 処分があったことを知った日の翌日から3ヶ月以内
必要書類
- 審査請求書
- 処分の内容を証明する書類
- 理由を裏付ける資料
ステップ2: 審査
審査の流れ
- 書面審査
- 口頭審理(聴聞)
- 証拠調べ
- 裁決
期間
- 通常3ヶ月〜1年程度
ステップ3: 裁決
裁決の種類
- 認容: 請求が認められる→雇い止め取消
- 棄却: 請求が認められない
- 却下: 手続き上の問題で審査されない
裁判による解決
取消訴訟
概要
- 雇い止め処分の取消を求める訴訟
- 行政事件訴訟法に基づく
提訴期限
- 処分を知った日から6ヶ月以内
- または処分の日から1年以内
地位確認訴訟
概要
- 会計年度任用職員としての地位確認を求める
- 民事訴訟
注意点
- 会計年度任用職員には労働契約法が適用されない
- 民事訴訟としてのハードルが高い
実際の雇い止めケーススタディ

ケース1: ハラスメント相談後の雇い止め
状況
- 国の期間任用職員(会計年度任用職員に相当)
- 上司のパワハラを相談
- その後、更新されなかった
問題点
- ハラスメント相談員自体がパワハラ加害者
- 相談内容が即座に職場全体に広まった
- 「非常勤のくせに」という差別的発言
結果
- 本人は退職を余儀なくされた
- 精神的苦痛で心身の不調
教訓
- ハラスメント相談の記録を残す
- 外部の第三者機関に相談する
- 労働組合に加入して保護を受ける
ケース2: 東京都スクールカウンセラーの大量雇い止め
状況
- 2024年3月末、約250人のスクールカウンセラーが雇い止め
- 東京都の上限4回ルールによる
- 専門性・継続性が求められる職種
問題点
- 選考基準が不透明
- 子どもとの信頼関係が断ち切られる
- 経験豊富な人材の流出
社会的反響
- 保護者や学校現場から批判
- メディアで大きく報道
- 制度の見直しを求める声
その後
- 一部自治体で上限撤廃の動き
ケース3: 障害者雇用での雇い止め
状況
- 障害者雇用枠で採用された会計年度任用職員
- 発達障害があり、コミュニケーションに配慮が必要
- 人事評価で低評価→更新されず
問題点
- 合理的配慮が提供されなかった
- 評価基準が不明確
- 障害特性が考慮されない
法的問題
- 障害者差別解消法違反の可能性
- 合理的配慮の不提供
今後のキャリアをどう考えるか

選択肢1: 正規職員を目指す
方法
- 自治体の採用試験を受験
- 社会人経験者採用枠を狙う
- 会計年度任用職員経験が評価される場合も
メリット
- 雇用の安定
- 給与・待遇の大幅改善
- キャリアアップの可能性
デメリット
- 競争率が高い
- 年齢制限がある場合も
- 試験対策が必要
選択肢2: 他の自治体の会計年度任用職員に応募
ポイント
- 上限のない自治体を選ぶ
- 待遇の良い自治体を探す
- 専門性を活かせる職種
上限のない主な自治体(2024年時点)
- 文京区
- 世田谷区
- 板橋区
- 八王子市
- 狛江市
- 調布市
- 練馬区(2025年度から)
選択肢3: 民間企業に転職
会計年度任用職員経験が活きる職種
- 一般事務
- 専門職(保育士、看護師、司書など)
- 公共サービス関連企業
- NPO・社会福祉法人
メリット
- 5年ルール(無期転換)が適用される
- 給与が高い場合も
- キャリアの選択肢が広い
選択肢4: 専門性を活かして独立
該当する職種
- 相談業務(キャリアコンサルタントなど)
- 専門技術職
- フリーランスとして活動
よくある質問

Q1: 更新されない理由を教えてもらえません。どうすればいいですか?
A: 書面での理由開示を正式に請求してください。
地方公務員法では、不利益処分の理由を示す義務があります。以下の方法で請求しましょう:
- 人事課に書面で「雇い止めの理由書の交付」を請求
- 回答がない場合は内容証明郵便で再請求
- それでも回答がない場合は人事委員会に相談
Q2: 人事評価は「良好」なのに更新されません。これは不当ではないですか?
A: 不当な雇い止めの可能性が高いです。
人事評価が良好であるにもかかわらず更新されない場合、以下の対応を
- 評価結果の写しを保管
- 不更新の理由との矛盾を指摘
- 労働組合や弁護士に相談
- 審査請求を検討
Q3: 妊娠を報告したら態度が変わり、更新されなくなりました。
A: 違法な雇い止めの可能性が非常に高いです。
妊娠・出産を理由とした不利益取扱いは、男女雇用機会均等法で禁止されています。
すぐに以下の行動を実行しましょう
- 経緯を詳細に記録
- 弁護士に相談(緊急性あり)
- 労働局雇用環境・均等部に相談
- 審査請求または訴訟を検討
Q4: 2024年6月に上限が撤廃されたのに、「上限に達した」と言われました。
A: 自治体の対応を確認してください。
2024年6月の通知後も、すべての自治体が即座に上限を撤廃したわけではありません。
- 自治体の条例を確認
- 上限撤廃を検討しているか人事課に確認
- 撤廃していない理由を質問
- 労働組合を通じて撤廃を要求
Q5: 審査請求と裁判、どちらが良いですか?
A: まずは審査請求をおすすめします。
理由
- 費用が安い(無料〜数万円)
- 手続きが比較的簡単
- 専門的判断が期待できる
- 裁判より短期間
ただし、審査請求で認められない場合、その後に裁判も可能です。
Q6: 労働組合に入ったことがないのですが、今からでも大丈夫ですか?
A: はい、いつでも加入できます。
多くの労働組合は個人でも加入可能です。
- 自治労
- 自治労連
- 地域労働組合(ユニオン)
雇い止め通告後でも加入できますし、組合が団体交渉してくれます。
Q7: 次の仕事が見つかるか不安です。
A: 会計年度任用職員の経験は評価されます。
実務経験として
- 一般事務スキル
- 専門職の経験
- 公的機関での勤務実績
これらは民間企業でも評価されます。
また、ハローワークの求職者支援制度も活用できます。
まとめ

会計年度任用職員の雇い止め|重要ポイント
1. 2024年6月に制度変更
- 再任用の回数上限が法的に不要に
- ただし自治体の対応は分かれている
- 約40%の自治体が見直し中
2. 不当な雇い止めの可能性があるケース
- 理由が明示されない
- ハラスメントや報復的要素
- 人事評価が良好なのに更新されない
- 妊娠・出産・労組加入後の雇い止め
3. 更新されなかった場合の対処法
- すぐに理由の書面開示を請求
- 証拠を集める
- 労働組合・弁護士に相談
- 審査請求を検討
4. 不服申し立ての方法
- 人事委員会への審査請求: 3ヶ月以内
- 取消訴訟: 6ヶ月以内
- 地位確認訴訟も可能
5. 今後のキャリア選択肢
- 正規職員への挑戦
- 上限のない自治体への応募
- 民間企業への転職
- 専門性を活かした独立
泣き寝入りしないために
会計年度任用職員の雇い止めは、一見すると「仕方ない」と思えるかもしれません。
しかし、不当な雇い止めは決して許されるものではありません。
あなたには権利があります。
- 理由を知る権利
- 不服を申し立てる権利
- 団体交渉する権利
- 裁判を起こす権利
一人で抱え込まず、労働組合や弁護士、支援団体に相談することで、道が開けることがあります。
最後に
会計年度任用職員の雇用問題は、社会全体の課題です。あなたの声は、制度を変える力になります。
不当な雇い止めに遭った場合は、ぜひ声を上げてください。それが次の世代の非正規公務員のためにもなります。

