会計年度任用職員として働いている方にとって、病気や怪我で長期間休まなければならなくなったとき、「収入がなくなってしまうのでは?」という不安は切実な問題です。
そんなときに頼りになるのが「傷病手当金」です。
しかし、「会計年度任用職員でももらえるの?」「どうやって申請するの?」「共済組合と協会けんぽで何が違うの?」など、分からないことも多いでしょう。
本記事では、会計年度任用職員が傷病手当金を受け取るための条件や申請手順、2025年4月からの病気休暇制度改正との関係まで、初心者でも理解できるよう徹底的に解説します。
傷病手当金とは

傷病手当金の基本的な仕組み
傷病手当金とは、病気や怪我で仕事を休んだときに、健康保険から支給される手当金です。
業務外の病気や怪我が原因で働けなくなり、給与が支払われない場合に、生活を支えるための重要なセーフティーネットとなります。
例えば、病気により長期休養が必要になった場合や、ケガで働けなくなった場合などが該当します。
傷病手当金と病気休暇の違い
混同しやすいのが「傷病手当金」と「病気休暇」です。
この2つは全く別の制度です。
病気休暇
- 勤務先の自治体が定める休暇制度
- 2025年4月から国では年10日間の有給病気休暇が導入
- 多くの自治体もこれに倣う動きがある
- 自治体によって有給・無給の扱いが異なる
傷病手当金
- 健康保険(共済組合または協会けんぽ)から支給される手当金
- 連続3日の待期期間後、4日目から支給開始
- 最長で通算1年6か月間受給可能
- 標準報酬日額の3分の2が支給される
病気休暇を使い切った後も、傷病手当金の受給条件を満たせば、引き続き手当金を受け取ることができます。
会計年度任用職員が加入する健康保険

2022年10月の制度改正
会計年度任用職員の健康保険制度は、2022年10月に大きく変わりました。
それまで協会けんぽに加入していた多くのパートタイム会計年度任用職員が、共済組合の「短期組合員」として加入できるようになりました。

短期組合員となる条件
- 週の勤務時間が20時間以上
- 報酬月額が8万8千円以上
- 雇用期間が2か月を超える見込みがある
これにより、会計年度任用職員の多くが、より手厚い保障を受けられる共済組合に加入することになりました。
共済組合と協会けんぽの違い
会計年度任用職員が加入する健康保険は、勤務条件によって「共済組合」または「協会けんぽ」に分かれます。
共済組合(短期組合員)
- 対象:週20時間以上で報酬月額8万8千円以上のパートタイム職員、フルタイム職員
- 保険料率:4.94%(介護・福祉含む)と協会けんぽより低い
- 独自の附加給付制度がある
- 福祉事業(人間ドック、保養所など)が利用可能
協会けんぽ
- 対象:共済組合の加入条件を満たさない短時間勤務者
- 保険料率:都道府県により異なるが9%台~10%台
- 基本的な健康保険給付のみ
どちらに加入していても傷病手当金の基本的な仕組みは同じですが、共済組合には附加給付があるため、より手厚い保障を受けられる場合があります。
傷病手当金の4つの支給条件

条件1:業務外の病気や怪我であること
傷病手当金が支給されるのは、業務外の病気や怪我の場合のみです。
対象となる例
- 風邪やインフルエンザで長期休養
- プライベートでのケガ
- うつ病などの精神疾患
- がんなどの重大な疾病
対象外となる例
- 勤務中のケガ(労災の対象)
- 通勤中の事故(労災の対象)
業務中や通勤中の事故によるケガは、労災保険の対象となるため、傷病手当金ではなく労災給付を申請することになります。
条件2:労務不能の状態であること
医師から「働けない」と診断されていることが必要です。
単に体調が悪いだけでは対象になりません。
労務不能とは、今まで従事していた業務ができない状態を指します。
医師の診断書や証明書が必要となるため、必ず医療機関を受診しましょう。
条件3:連続して3日以上休んでいること
傷病手当金には「待期期間」があります。
連続して3日間休んだ後、4日目から支給が開始されます。
待期期間の数え方
- 土日祝日も含めて連続3日間
- 有給休暇を使った日も含まれる
- この3日間は傷病手当金の支給対象外
具体例
- 月曜から水曜まで休む → 木曜日から支給対象
- 金曜から日曜まで休む → 月曜日から支給対象
- 2日休んで出勤し、再び休む → 待期期間はリセットされ、再び連続3日が必要
なるべく早く傷病手当金を受け取りたい場合は、待期期間が完成するまでの3日間は無理に出勤しないことが重要です。
条件4:給与が支払われていないこと
休業期間中に給与が支払われていない、または給与が傷病手当金の額を下回っている場合に支給されます。
給与との関係
- 給与が全く支払われない → 傷病手当金の全額を受給
- 給与が一部支払われる → 傷病手当金の額が給与を上回る場合、その差額を受給
- 給与が傷病手当金の額以上 → 傷病手当金は支給されない
2025年4月から導入される有給の病気休暇(年10日)を使用している期間は、給与が全額支払われるため、その期間中は傷病手当金は支給されません。
有給の病気休暇を使い切った後、無給の期間から傷病手当金の対象となります。
傷病手当金の支給額と期間

支給額の計算方法
傷病手当金の1日あたりの支給額は、標準報酬日額の3分の2です。
計算式
1日あたりの傷病手当金 = 支給開始日以前の直近12か月の標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 2/3
具体例: 過去12か月の標準報酬月額の平均が24万円の場合
- 標準報酬日額:24万円 ÷ 30日 = 8,000円
- 傷病手当金:8,000円 × 2/3 = 約5,333円/日
月30日休んだ場合、約16万円の傷病手当金を受給できる計算になります。
支給期間
傷病手当金は、支給開始日から通算して1年6か月間受給できます。
重要なポイント
- 以前は「支給開始から1年6か月」が期限でしたが、現在は「通算1年6か月」に変更
- 途中で復職した期間は支給期間から除外される
- 復職後に再び同じ病気で休業しても、通算1年6か月を超えない限り支給される
- 結核性疾病の場合は3年間
具体例
- 3か月休業 → 3か月復職 → 再び休業した場合 最初の3か月 + 再休業後の期間で通算1年3か月間まで受給可能
共済組合の傷病手当金附加金
共済組合に加入している場合、傷病手当金の支給期間終了後も「傷病手当金附加金」が支給されることがあります。
傷病手当金附加金
- 傷病手当金の支給期間(通算1年6か月)終了後に支給
- 最長で6か月間
- 資格を喪失するまで継続
ただし、任意継続組合員は支給対象外となります。
傷病手当金の申請方法

申請に必要な書類
傷病手当金を受給するには、以下の書類が必要です。
1. 傷病手当金請求書(様式第11号)
- 共済組合または協会けんぽから入手
- 自治体の人事担当課でも配布
2. 医師の証明書
- 労務不能であることの証明
- 療養の期間を明記
- 医療機関で記入してもらう(有料の場合が多い)
3. 所属長からの証明
- 休業期間の確認
- 給与支給の有無の証明
4. その他必要に応じて
- 出勤簿の写し
- 給与明細書
- 復職する場合は復職以降の診断書
申請の手順
ステップ1:医療機関を受診
病気や怪我で働けなくなったら、まず医療機関を受診し、医師の診断を受けます。
ステップ2:所属先への連絡
上司やケースワーカーに休業の報告をし、傷病手当金を申請したい旨を伝えます。
ステップ3:必要書類の準備
- 人事担当課から傷病手当金請求書を入手
- 医療機関で医師の証明欄に記入してもらう
- 所属長に証明欄に記入してもらう
ステップ4:提出
完成した申請書類を、所属先の人事担当課または共済組合に提出します。
ステップ5:審査・支給
審査が通れば、指定した口座に傷病手当金が振り込まれます。
申請のタイミング
傷病手当金は、休業期間が終わってからまとめて申請するのが一般的です。
ただし、休業が長期化する場合は、1か月ごとに申請することも可能です。
申請期限は、傷病手当金の支給を受ける権利が発生した日の翌日から2年間です。
遡って申請できますが、早めに申請することをおすすめします。
注意すべきポイント

他の給付との調整
傷病手当金は、他の給付を受けている場合、調整されることがあります。
1. 障害年金や退職年金を受給している場合
障害厚生年金、障害基礎年金、老齢退職年金などを受給している場合、傷病手当金の額が年金の日額を下回る場合は支給されません。年金の日額より傷病手当金の額が多い場合は、その差額が支給されます。
2. 出産手当金との関係
出産手当金と傷病手当金の両方の支給条件を満たす場合、原則として出産手当金が優先されます。ただし、傷病手当金の額が出産手当金の額を上回る場合は、その差額が支給されます。
3. 育児休業手当金・介護休業手当金との関係
会計年度任用職員は雇用保険にも加入しているため、育児休業給付や介護休業給付を受けることができる場合は、共済組合からの手当金は支給されません。雇用保険からの給付が優先されます。
病気休暇との関係
2025年4月から国では年10日間の有給病気休暇が導入され、多くの自治体もこれに倣っています。
有給病気休暇と傷病手当金の関係
- 有給病気休暇期間中(給与が支払われる):傷病手当金は支給されない
- 有給病気休暇を使い切った後(無給の期間):傷病手当金の対象となる
つまり、まず有給の病気休暇を使い、それを使い切ってから傷病手当金の申請を行うことになります。
自治体による制度の違い
会計年度任用職員の病気休暇制度は、自治体によって異なります。
確認すべき点
- 病気休暇の有給期間(0日~10日以上まで様々)
- 病気休暇の取得条件(任期6か月以上など)
- 診断書の提出が必要かどうか
- 病気休暇取得時の期末手当への影響
所属する自治体の人事担当課に確認することが重要です。
2025年4月からの病気休暇制度改正

国の非正規職員への有給病気休暇導入
2025年4月から、国では非正規職員に対して年10日間まで有給の病気休暇が導入されることになりました。
これは非正規公務員の処遇改善の大きな一歩です。
導入の背景
- 正規職員と非正規職員の処遇格差の是正
- 安心して療養できる環境の整備
- 人材確保と定着率の向上
自治体への影響
国の制度変更を受けて、多くの自治体が同様の有給病気休暇制度を導入する動きが広がっています。
導入状況
- 既に独自に有給病気休暇を導入済みの自治体もある
- 2025年度から新たに導入を予定する自治体が増加
- 自治体によって有給日数や条件が異なる場合がある
確認方法
お住まいの自治体の公式サイトや、人事担当課に問い合わせて、最新の制度内容を確認しましょう。
有給病気休暇導入後の傷病手当金
有給病気休暇が導入されても、傷病手当金制度自体は変わりません。
併用の流れ
- 病気で休業開始(待期期間3日間)
- 4日目から有給病気休暇を使用(年10日間)
- 有給病気休暇を使い切った後、無給の病気休暇へ移行
- 無給期間について傷病手当金を申請・受給
このように、有給病気休暇と傷病手当金を組み合わせることで、より長期間の療養をサポートすることができます。
退職後の傷病手当金

退職後も受給できる条件
会計年度任用職員が退職した場合でも、以下の条件を満たせば傷病手当金を継続して受給できます。
退職後の受給条件
- 退職日の前日まで引き続き1年以上組合員(または被保険者)であったこと
- 退職日当日に傷病手当金を受給している、または受給できる状態であったこと
注意点
- 退職日に出勤してしまうと、退職後の傷病手当金は受給できない
- 任意継続組合員は傷病手当金の支給対象外
- 最長で支給開始から通算1年6か月まで受給可能
任意継続組合員との関係
退職後に任意継続組合員になった場合、傷病手当金は支給されません。
退職後も傷病手当金を受給したい場合は、任意継続組合員にならない選択も検討する必要があります。
ただし、その場合は国民健康保険に加入することになり、医療費の自己負担割合などが変わる可能性があるため、総合的に判断しましょう。
よくある質問

Q1. 会計年度任用職員でも傷病手当金はもらえますか?
A1. はい、もらえます。共済組合または協会けんぽに加入していれば、会計年度任用職員でも傷病手当金を受給できます。ただし、4つの支給条件を満たす必要があります。
Q2. 傷病手当金の申請に診断書は必須ですか?
A2. はい、医師の証明が必要です。傷病手当金請求書に医師の証明欄があり、労務不能であることを証明してもらう必要があります。診断書の発行には費用がかかることが多いので、事前に確認しましょう。
Q3. 待期期間の3日間は有給休暇を使っても良いですか?
A3. はい、問題ありません。待期期間の3日間は、有給休暇、無給休暇、土日祝日のいずれでもカウントされます。ただし、この3日間については傷病手当金は支給されません。

Q4. 精神疾患でも傷病手当金は受給できますか?
A4. はい、受給できます。うつ病などの精神疾患も傷病手当金の対象です。医師から労務不能の診断を受け、他の条件を満たせば支給されます。
Q5. 傷病手当金をもらうと次年度の契約更新に影響しますか?
A5. 基本的に、制度に基づいて傷病手当金を受給したこと自体が不利になることはありません。ただし、長期間の休業により勤務実績が著しく少ない場合、人事評価や次年度の任用判断に影響する可能性はあります。

Q6. 共済組合と協会けんぽで傷病手当金の額は違いますか?
A6. 基本的な計算方法(標準報酬日額の2/3)は同じです。ただし、共済組合には「傷病手当金附加金」があり、支給期間終了後も最長6か月間支給される場合があるため、より手厚い保障を受けられます。
まとめ:安心して療養するために

会計年度任用職員の傷病手当金について、重要なポイントをまとめます。
傷病手当金の基本
- 会計年度任用職員でも健康保険に加入していれば受給可能
- 2022年10月から多くの職員が共済組合の短期組合員に
- 業務外の病気・怪我で働けなくなったときのセーフティーネット
受給の4条件
- 業務外の病気や怪我であること
- 医師から労務不能と診断されていること
- 連続して3日以上休んでいること(待期期間)
- 給与が支払われていないこと
支給額と期間
- 標準報酬日額の3分の2が支給される
- 通算1年6か月間受給可能(結核性疾病は3年間)
- 共済組合には傷病手当金附加金もある
2025年度からの変化
- 国では年10日間の有給病気休暇が導入
- 多くの自治体も同様の制度を導入予定
- 有給病気休暇と傷病手当金を組み合わせて活用
申請時の注意点
- 医師の証明書が必要
- 所属先の人事担当課に早めに相談
- 他の給付との調整に注意
- 自治体によって病気休暇制度が異なる
困ったときの相談先
- 所属先の人事担当課
- 共済組合または協会けんぽの窓口
- 所属する労働組合(ある場合)
- 社会保険労務士などの専門家
病気や怪我は誰にでも起こり得ることです。
会計年度任用職員として働いている方も、傷病手当金という制度があることを知っておくことで、いざというときに安心して療養に専念できます。
制度は複雑に感じるかもしれませんが、一つひとつ確認していけば必ず理解できます。
不明な点があれば、一人で悩まず、人事担当課や共済組合に相談してください。
あなたの健康と生活を守るための制度です。必要なときには遠慮なく活用しましょう。

